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2014年1月 4日 (土)

不毛地帯(1)/山崎豊子

Photo  大門の口もとに苦笑が洩れた。この男を採用すべく、半年前から再々、使いの者をさし向けたにもかかわらず、その度に、鄭重に辞退し続けられたのだった。そうした大門に対し、近畿商事の役員たちは、元大本営参謀の採用に疑問を持っていた。戦後の一時期、旧軍の司令官や参謀クラスを意識的に集め、その人物のコネや顔を巧みに利用した企業があったのは事実だったが、戦後十三年経っている今日、近畿商事のように生っ粋の大阪発祥の商社が、よりにもよってシベリア帰りの旧軍人などを採用しなくてもというのが、役員たちの意見であった。しかし、大門は旧軍人のコネや顔などあてにしていない。それより彼らの作戦力と組織力に魅力を感じているのだった。民間企業の中でその力量をどれだけ発揮できるか解らなかったが、曾て国家の総力を傾けて養成し、今の貨幣価値に換算すれば、一人数千万の国費をかけた参謀クラスの中から、優れた人材を選び出すのは、最も合理的で、確率の高い方法だというのが、大門の考え方であり、使えるか、使えないかは、首実検の上決めればいいことだと思っていた。

昨年他界された山崎豊子氏の著書。

本書の主人公、主人公の壱岐正は伊藤忠商事の元会長瀬島龍三がモデルと言われている。

何かと批判の多い人物だった。

第一巻は、主人公の11年間にも及ぶシベリア抑留についてほとんどの紙面が割かれている。

そして壱岐が11年間の抑留を終え、2年間の浪人生活を経て近畿商事の採用面接に臨んだ場面が上記抜き書きである。

この時、大門社長がなぜ元大本営参謀であった人物を採用しようと考えたのか、その動機について記されている。

大門社長が壱岐を採用した理由は、その戦略立案力であり、組織力についてである。

近年、企業経営では戦略という言葉が盛んに出てくるが、元々戦略という言葉は軍事用語である。

その戦略という言葉を企業経営にも使ったのはドラッカーだとされている。

その意味では、元大本営参謀の戦略立案力を企業経営に活用しようという大門社長の発想は時代の先端をいくものだったのではなかったかと考えさせられた。

本書はあくまでもフィクションだが、実在の人物と比較しながら読むのも非常に面白い。

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