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2014年1月 8日 (水)

不毛地帯(5)/山崎豊子

Photo  壹岐は上衣の内ポケットから白い封書を取り出し、机の上に置いた。『辞表』としたためられている。大門の顔色が、変った。
「壹岐、まさか……本気か……」
 今の今まで、壹岐が、社長の座を取って替ろうとしているとばかり思い込んでいた大門は、呆然とした。
「社長、どうかご受理下さい、社長が勇退された社に、私が残ることなどあり得ようはずがございません、同道させて下さい」
「壹岐、君は、自分の一身を賭してまで、わしに退陣を勧めるのか」
 大門は呻くように云い、なお心の葛藤と闘うように長い重苦しい沈黙が続いた。不意に大門の体がぐらりと揺らいだ。
「会社は、あと、どうなるのや」
「組織です、これからは組織で動く時代です、幸いその組織は、出来上っております」
 壹岐は入社時、大門から大本営参謀として持っている作戦力と組織力をわが社に生かしてほしいと求められたのだった。
「そうか、あとは組織か……」
 大門は、今はここまでと覚悟を決めるように云い、窓辺へ歩いて行った。

かつてのカリスマ社長が晩節を汚すことはよくある。

若いころは先見の明と強いリーダーシップで会社を大きくしていった社長が、加齢とともに、その判断に狂いが生じ、老害をまき散らすようになる。

いわゆる〝ダースベーダー化〟である。

ところがこのようなカリスマ社長の周りは大抵イエスマンばかり。

誰も本当のことを言えない。

裸の王様状態に陥ってしまう。

大門社長もそうなっていた。

そこで壱岐は自らの退職と引き換えに大門の退陣を進言する。

それにより大門社長は相談役に退くことになる。

しかし、この部分は完全にフィクションだと思う。

事実はこれとは違う。

実際、壱岐のモデル、瀬島龍三氏は退職することなく、最後は伊藤忠商事の会長まで上りつめている。

現実は小説のようにはうまくはいかないものである。

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