富の王国 ロスチャイルド/池内紀
同族経営、同族結婚は遅かれ早かれ破綻をきたし、手痛いシッペ返しをくらうものだが、ロスチャイルドは二十世紀になっても古いスタイルを守りつづけた。医学の声を入れて同族結婚は放棄したが、同族経営は原則としてゆずらない。
世界の大富豪ロスチャイルド。
この名は誰もが知っている。
大金持ちの代名詞にもなるほどだ。
しかし、その実態は意外と知られていない。
そのような問題意識のもと書かれたのが本書である。
そもそもロスチャイルドという名前。
これが商いの名前であることは知られていない。
イサーク・エルヒャナンという人物。
彼が、知られているかぎり、最初の〝ロスチャイルド〟である。
五百年ちかく前のことだが、フランクフルトの一角に金融業の看板を出した。
当時、金貸し業者は戸口に赤い標識をぶら下げる習わしがあった。
ドイツ語で「赤い」はロート、「標識」はシルト、そのころの書き方で綴りにすると、《Rothschild》である。
ドイツ語ではロートシルト、英語読みするとロスチャイルド、ずっとのちのことだが、商いの名を、そのまま姓にした、というのである。
その後、ロスチャイルド一族は、金融業を中心に富を蓄積していく。
そして政治的にも力を増していく。
時代の変化の先手を打つようにして、異分野の成長株に投資を怠らない。
七代目を迎えた現在にあって、ロスチャイルドは世界に君臨している。
しかも、ひそかに、めだたず、ひっそりと根を張って、君臨する者につきものの敵をつくらない。
ロスチャイルドは典型的な同族経営である。
同族経営は前近代的であるという印象があるが、やり方によっては極めて優れた経営システムにもなり得るということをロスチャイルドは示している。
同族経営を見直すという意味でも非常に面白い。
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