ハゲタカ(下)/真山仁
「この国の人間は、文化や伝統など世界でも有数の長い歴史を刻んできた先達の偉業に対して、敬意を示そうとしない。金になるなら、どんなものでも破壊する。保護するという人間の大半だって同じだ。その裏にある金に目がくらんでいるか、稼ぎすぎた金を上手に捨てて売名行為をしようという連中ばかりだ。だからいざ懐が寒くなれば、伝統も文化もかなぐり捨てて、自分達だけ生き残ろうとする。いいか、もし足助銀行が、日本のどこかの銀行の傘下に入ったが最後、日光、中禅寺湖、そして鬼怒川にあるホテルや旅館は全部整理されて、今まで守られてきた環境は、ぶち壊される。京都しかり熱海しかりだ。こういう場所は、本当に価値が分かる人間が、莫大な金を投下して守るべきなんだ」
「悪いけど、私、そんなきれい事信じないわよ」
リンの言葉に、鷲津は静かに笑みを浮かべて言った。
「これは、きれい事じゃない。俺の日本人としての証だ」
ある時、周囲からハゲタカと呼ばれ恐れられている鷲津の口から意外な言葉が語られる。
それは「日本人としての証」という言葉。
その言葉を聞いたビジネスパートナーの女性は、きれいごとだと揶揄する。
でもこれ、意外と本音かもしれない。
人間は結局、カネだけのために仕事をすることはできない。
使命感や意義というものがなければ、どんな仕事も長続きしないものである。
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