世界が認めたニッポンの居眠り/ブリギッテ・シテーガ
ヨーロッパでも通勤客や長距離旅行者が車内で眠ることはあるが、座っていようと立っていようと勤労者がこんなに頻繁に、こんなに多くの場所で、しかもありとあらゆる姿勢で眠っている国を私は今まで旅したこともないし、そうしたことを耳にしたこともない。人前なのにプライベートで眠る行為は、フォーマルな外見と矛盾するように思える。
地下鉄の座席で居眠りする乗客は、日本ではごく普通に見られる光景だが、これは外国人にとっては異様に見えるという。
本書では、この現象に興味を持った著者が、歴史的・文化的・科学的アプローチから解き明かそうとしている。
著者によると、睡眠の文化圏には基本的に次の三タイプがあるという。
第一のタイプは単相睡眠の文化圏。
一日の睡眠が一回だけ、それも夜間という文化圏。
このタイプは社会形態として広まっており、約八時間の継続睡眠が理想とされているが、この数字は次第に疑問視されるようになってきている。
第二のタイプはシエスタ文化圏。
夜間の睡眠時間が短く、昼寝が社会的に制度化されている文化圏である。
これには二相睡眠、つまり「社会的に確立されている夜間睡眠、および、昼・午後の睡眠」が中心の社会も含まれる。
私は以前、ギリシャに旅行したことがあるが、午後の日差しが強くなる時間帯、町中から人がいなくなったことを印象深く覚えている。
これがシエスタと呼ばれるものなのであろう。
そして第三のタイプ、それは仮眠文化圏である。
夜間の睡眠時間が短く、各個人が気ままにうたた寝・居眠りする文化圏で、個人の選択に任される昼間睡眠のほかに、一定の夜間睡眠があるという多面性を特徴とする。
これに日本が属するということ。
日本の古典文学研究を参照すれば、居眠りが平安・鎌倉の時代にすでに広まっていたこと、現代社会だけの現象ではないということが分かる。
貴族の日常生活においても、また仏教界においても、身分の上下を問わず、つまり僧侶であろうと一般の信者であろうと、居眠りはごくふつうになされていた。
仕事中や公式儀礼中だけでなく、遊びにおいても居眠りは行われていた。
このように居眠りを一つの文化ととらえる視点は非常に面白い。
これも日本の特異性の一つなのだろう。
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