「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち/榎本博明
報告したはずなのに「聞いてない」と言われる。現場のことは任せると言っておきながら、「そんなことは聞いてないぞ」と責められる。ひどいときは、そんなことを言ってる場合じゃない危急の状況なのに、「俺は聞いてない!」と怒りだす。そんな光景を私たちはしばしば経験する。
じつは、ここに日本的なコミュニケーションに根ざす重大な問題が横たわっている。
「俺は聞いてない」という言葉に日本的コミュニケーションの問題が表れていると著者は言う。
それは、第一に、曖昧なコミュニケーションに終始しているということ。
日本の組織では「空気を読む」ことが重視される。
組織の成員は、そこに流れる空気を敏感に読み取り、自分の行動を制御する。
「空気を読む」とは「はっきり言わない」ということでもある。
「言わなくてもわかるだろう」「こんなこと察しろ」というわけである。
ところが読みそこなうことがある。
そんな時「俺は聞いていない」という言葉が出てくるのである。
第二に、上司が「知らされないこと」を怖れているということ。
日本の上司が「俺は聞いていない」という場合、それは内容そのものに対する発言ではなく、知らされなかったことにこだわっていることが多い。
つまり部下から上司として認められていないのではという不安から出る言葉である。
そして第三に、上司は都合よく「聞いてない」ことにできるということ。
これは部下から見れば「はしごを外される」ということに他ならない。
逆に言えば、上司にとってはこの言葉は便利な言葉だと言える。
いずれにしても「俺は聞いていない」という言葉の中に、日本的な以心伝心のコミュニケーションの根本問題が隠されているといっても良い。
これは非常に興味深い視点である。
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