消えたヤルタ密約緊急電/岡部伸
ルーズベルトはあっさり回答した。
「南樺太と千島列島がソ連に引き渡されることについては、なんら問題ではない」
ここでスターリンはぼそぼそと答えた。
「日本がロシアから奪い取ったものを、返してもらうことだけを願っているのです」
ルーズベルトは相槌を打った。
「取られたものを取り返したいというのは、きわめて無理のない要求でしょう」
こうして、ソ連がドイツの降伏から二、三ヶ月後に日本に宣戦布告することと、その見返りにスターリンが要求する条件に、ルーズベルトはほぼ全面的に同意した。
1945年2月にクリミア半島のヤルタ近郊でアメリカ、イギリス、ソビエト連邦による首脳会談が行われた。
これがヤルタ会談だが、ここで密約が結ばれた。
その密約とは「ソ連はドイツの降伏より三ヶ月後に連合国側にくみし、日本に参戦する」というもの。
ところが、このヤルタで密約が結ばれたという情報を、会談直後に秘かに入手して、北欧の中立国スウェーデンから、機密電報で日本の参謀本部に打電した人物がいた。
帝国陸軍のストックホルム駐在武官だった小野寺信少将である。
しかし、その電報が何者かの手によって握りつぶされてしまっていた。
本書では、その人物とは瀬島龍三であったと推定しているが、本当のところはわからない。
もしこの情報が国の意思決定をするものに伝わっていたなら、終戦直後のソ連参戦に対して何らかの対策を講じることができたかもしれない。
歴史にifはないとよく言われるが、ついつい想像をめぐらしてしまうエピソードである。
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