「キレ」の思考「コク」の思考/村山昇
「キレ=鋭さ(sharpness)」は能力の問題であるが、「コク=豊かさ(richness)」は存在の問題である。真に力強い思考は、能力を高めることを超えて、存在からの湧き出しが渾々となければ実現されない。
「キレ」と「コク」で思い出すのが、「コクがあるのにキレがある」というアサヒ、スーパードライの宣伝文句である。
でも、このこの単語の意味を本書を読むまで深く考えたことがなかった。
「キレ」とは、カミソリのような鋭さを連想させる。
物事を分析的に論理的に、具象的で直線的に、明瞭さを追求しながら考えることを意味する。
一方「コク」とは奥行を深さを連想させる。
物事を綜合的に直観的に、抽象的で非直線的に、ある種の曖昧さを友としながら考えることを意味する。
両方とも大事なことなのだが、昨今のビジネスの現場では、前者の「キレ」ばかりが強調されているように思える。
書店に行けばロジカルシンキング、戦略思考、統計学、クリティカルシンキング手法等の書籍であふれている。
確かに今のビジネスパーソンは、データを集め分析することは巧みになったし、定型化された戦略フレームシートに文字をぎっしり埋めることも上手になってきた。
しかし、物事を本質を掴もうとする場合、これらの手法を用いるだけで、ちょうどカミソリで切るようにスパッと切れ味鋭くいくのか?
非常に疑問である。
そして同じように合理的に物事を考え、戦略を立てた場合、どこも同じ答えしか出てこない可能性が出てくる。
戦略には独自性が求められることを考えると、これでは意味がない。
つまりこれらの手法は合理的ではあるが、「何かが欠けている」という印象をぬぐいきれない。
そこで出てくるのが「コク」の思考である。
日本人は、元来、「コク」の思考においてこそ独自性を発揮してきたのではないだろうか。
今こそ「コク」の思考を再評価する必要がある。
それによってはじめて、グローバル化する市場のなかで、安さ競争を超え、コモディティ化圧力に抗うことのできるモノやサービスを生み出すことができるのではないだろうか。
« 無気力なのにはワケがある/大芦治 | トップページ | マーケティング発想の人財採用戦略/杉田英樹 »
コメント