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2015年3月17日 (火)

掏摸/中村文則

Photo やがて、ものを手に入れる緊張が、さらに僕を惹きつけるようになった。他人のものに、自分の指がふれる緊張と、その後に訪れる、暖かで確かな温度に。それはあらゆる価値を否定し、あらゆる縛りを虐げる行為だった。必要なものを盗み、必要でないものを盗み、必要でないものは、盗んだ後に捨てた。その入ってはいけない領域に伸びた指、その指の先端の皮膚に走る、違和感など消えうせる快楽を──。

この一文、スリをする主人公の緊張感や快楽をよく表している。

どうしてこの主人公はスリを繰り返すのか?

どうも生活の為だけではないようだ。

おそらくスリをする瞬間の緊張感を体が覚えてしまって抗えなくなってしまっているからなのだろう。

ある種の麻薬のようなものかもしれない。

私は小説を読むことは疑似体験だと思っている。

人は一生に一つの人生しか歩むことはできない。

当たり前のことなのだが、なんかもったいない気がする。

もっと他の人生も体験してみたいと思ったりする。

でもスリの体験など、到底できない。

小説はそれ疑似体験という形で果たしてくれる。

小説を読む意味もこんなところにあるのではないだろうか。

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