秘密な事情/清水一行
「お願いしなければなりません」
堀川はさらに深く橋爪に頭を下げた。
「だめですね」
だが橋爪はわざとらしく顔をそむける。
「発表を抑えていただけませんか」
「初めに言ったように、金で取引する意志はないね。買収はされないよ」
「するといまの話をどこかへお書きになるのでしょうか」
「それはね、こんな話じゃ週刊誌はスペースをくれないかもしれない。だけどそのときは単行本で出版すればいいんだから、こっちはちっとも困らない」
松下電器を題材にした経済小説である。
小説の形をとっているが、実話をベースにしている。
内容は創業一族のスキャンダルのもみ消しに奔走する広報マン、堀川陽一の話。
スキャンダルが報道されそうになると、その情報をいち早くつかみ、それが世に出ないようカネで情報を買い取る。
あくまで小説仕立てだが、幸之助の娘婿、松下正治の私生活を扱ったもの。
小説の「雅道会長」は、正治会長をモデルにしているのは明らか。
正治会長の愛人の存在については業界では公然の秘密だったという。
実名では報道できない部分をフィクションという形で世に出す。
表面的な報道では知りえない部分が描かれているという点で、非常に興味深い。
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