数の風景/松本清張
あれは、いわゆる「計算狂」というのである。精神病ではない。一種の強迫観念である。数えられるものは何でも数えなければ不安になるのである。
ブルックナーは、木の葉も、星も、砂粒も数えたとある。著名な古典作曲家によくもまあ、梅井きく女に似た人物がいたものだと谷原は感歎した。
この小説、「数」が謎を解くキーワードになっている。
負債をかかえて自殺する場所を求め逃避行をしていた谷原は、たまたま同じ宿に泊まった設計士、板垣と“計算狂”の美女についての話をするうち、大金儲けのヒントを得て自殺を思いとどまる。
さっそく谷原は行動に移し、高圧線下の細長い土地を買収し、それをもとに電力会社を脅し、多額の補償金を得る。
電力会社から1億2千万円の補償金を獲て、さらに勝負に出ようとした矢先、結局それが過去の他の殺人事件を掘り起こすことになり、その関係者に殺されてしまう。
それにしても、読後、「計算狂の女」が一番印象に残るのは、いつの間にか清張の術中にはまっていたのかもしれない。
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