逆説の日本史〈15〉近世改革編/井沢元彦
日本人はあまり意識していないが、戦国末期の日本という国は、おそらく世界最大最強の陸軍国であった。動員できる兵は少なく見積もっても二十万人。それもただの農民を徴兵してきたというのとは違い、戦国の争乱で練りに練った精兵である。鉄砲の装備率は世界最高であったであろうし、「中間管理職」の部課長クラスも極めて優秀なのがっている。数だけで言うなら中国(当時は明)に負けるかもしれないが、レベルは日本の方が上であったろう。
日本は、戦国時代末期に世界最強の陸軍国であった。
ゆえに江戸時代には武装中立国となることができた。
面白い視点だが、確かにそうだと思う。
これは逆に言えば、日本は世界一安全な国でもあったということ。
世界最強の陸軍国であり島国でもあった。
こうした環境の中、秀吉政権の後を担った徳川家康は海外発展策をあきらめた。
そして、結局、家康の子孫たちはキリスト教禁止を優先して、西洋との海外貿易はオランダ一国に限定するという、極めて消極的な政策をとった。
これが「鎖国」と呼ばれるものである。
これは実は、軍事的に見れば日本は「武装中立国」になったということである。
逆に考えれば「武装中立」を維持するためには強力な軍事力を維持していなければならないということ。
ということは、軍隊を持たない現在の日本はそんなことはできないということ。
ましてや一時さかんに議論されていた「非武装中立」など、論理的にあり得ないということになる。
武装していなければ中立は守れない。
だから「武装中立国」は有り得ても「非武装中立国」などというものは有り得ないのである。
大真面目に「非武装中立」を議論する日本という国。
日本の常識は世界の非常識と言われる所以ではなかろうか。