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2016年1月 6日 (水)

砂の器(下)/松本清張

Photo_2 当時、本浦秀夫は新進作曲家として将来を嘱望され、また現大臣の愛娘と婚約しまして、まさに前途有望、バラ色の人生を迎えていたのでございます。
 しかるに、忽然として目の前に忌まわしき人物が現われたのでございます。もとより、三木謙一氏には他意はございませんでした。長い間別れていた秀夫の面影を伊勢で発見し、なつかしさのあまり、上京して面会したのでございますが、秀夫にとっては一大恐怖でございました。というのは、同氏の口から、もし、自分の前歴が暴露された場合、現在進行している婚約が破棄される可能性のあることはもちろん、そのような忌まわしい父を持っていたことも、また、せっかく、これまで経歴を詐称していたことも、ことごとく暴露するわけでございます。これは当人にとってはたまったものではございませんでした。おそらく、そのときの驚愕、苦悶は、言語に絶するものがあったと想像されます。

上記は担当刑事による実行犯の動機の解明の部分である。

犯人は自己の将来のために、あるいは自己の地位の防衛のために、三木謙一の殺害を思い立った。

これが蒲田操車場事件の殺人動機であったと。

将来有望な新進作曲家が過去を暴露されることを恐れて殺人に走ったというもの。

でも、現代だったらどうだろう?

らい患者を父に持ち、それにもめげずにのし上がって今は世間の注目を集めている男。

もしかしたら、暗い過去は世間の同情を集めるかもしれない。

かえって逆境にも負けない時代の寵児ともてはやされるかもしれない。

少なくとも、それによって葬られることはないだろう。

こんなところにも「あの時代」をバックボーンにした小説だといえる。

だれもが自分が生きた時代にほんろうされる。

それが人生だとも言える。

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