砂漠の塩/松本清張
真吉が服のポケットから白い瓶を二つ取り出した。泰子は彼の胸に顔をうずめた。
「いいか、ぼくから先に飲むよ」
彼は瓶の蓋を開き、泰子の背中を押えた。突然、彼女の手が上に伸びて、彼の口を塞いだ。
「いや、いや」彼女は身体を激しく揺すった。「わたしから、先よ。飲ませて……」
泰子は顔を仰向かせ、口を開けて待った。
「ぼくから先にしよう。見ていてくれ。ぼくの通りにするんだよ」
「いや、あなたこそ、わたしの飲むのを見まもってね、お願い……」
松本清張の小説といえば推理小説と思いがちだが、本書は恋愛小説である。
それも不倫もの。
さながら失楽園を思わせる。
妻を捨てた男と夫を裏切った女がカイロへと旅立ち、砂漠の中で死地を求めてさまよう。
そして妻を求めてその跡を追う夫。
結末は悲劇的である。
救いようがない。
「砂漠」とは「不毛」を象徴させる。
「不毛の愛」をテーマにするために、清張はあえて砂漠を場面に設定したのではないだろうか。
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