昭和と日本人 失敗の本質/半藤一利
国際連盟脱退という一つの基準に向けて、欧米の論調に気をもみながら、そこからの感情的な反撥が冷静な判断を失わせ、全社一丸となって驀進していくさまが、各新聞の縮刷版をちょっとのぞけば十分に窺われる。それは、やがて全権松岡洋右を時代の英雄児に仕立てていった。
日本はどうしてあの無謀な戦争に突入していったのか?
そのきっかけになったのか連盟脱退だった。
その時の各新聞の論調は、連盟脱退を称賛するものばかりだった。
国民は、一方的な新聞報道を吹きこまれ、日本は国際的な被害者なのに、加害者として非難されていると信じ、焦燥と鬱屈した孤立感と排外的な感情とをつのらせていった。
その後、日本はあの戦争への道を歩みだす。
こう考えると、「言論」のもつ重さとともに、日本人とは何であったのか、改めて考えないわけにはいかなくなる。
国際連盟を脱退したその後の日本は「光栄ある孤立」と肩肘を張りながら、世界と対決姿勢を高め、「戦争心理」を増幅させていった。
それは、なにも世論を煽ったマスコミだけの責任ではない。
といって軍部にだけ全責任をかぶせるわけにもいかない。
もはや総力戦の時代であり、いかに勢威を誇ろうと、国民の参加なくして軍だけで国策を進めていくのは不可能になっていた。
これは、なにも昭和一ケタ時代だけの特異の現象とすましておくわけにはいかないのではないだろうか。
単一民族神話にもとづく排外意識という、日本人のもつ精神の病いは今も見られる。
それは極度なまでの狂熱をともなう。
しかも孤立化が深まると発病しやすい。
今の日本人も同じ体質を持っているということを一つの戒めとしておく必要があるのではないだろうか。
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