聖断/半藤一利
鈴木首相は昭和四年一月から十一年まで、侍従長として八年間も天皇裕仁の身近にあった。この間の昭和四年八月から八年八月までの同じ時期の四年間、阿南陸相は中佐の侍従武官として、これまた天皇のそばに奉仕したのである。歴史は皮肉なことをすることが多いが、時として未来をさりげなく準備する。
「歴史は皮肉なことをすることが多いが、時として未来をさりげなく準備する」
印象深いフレーズである。
確かに戦争を終結に導くために、天皇の「聖断」を求めたのは鈴木首相の英断による。
また、それに反発し、反乱を起こそうとする軍部を押さえたのは、阿南陸相の自決であった。
この二人の武人は、一時期、特殊な宮中生活の中、誠心誠意、若き天皇に仕えた。
天皇はまた、誠実さを何よりも愛する人であった。
鈴木侍従長を類のない忠誠の士と、そして阿南武官を信頼するに足る数少ない軍人と、天皇は認めた。
陸相として阿南は、天皇の身を案じ無条件降伏には反対しつづけたが、最後に天皇の明確な意思を知ると、おのれの忠誠心に基づいて真一文字に行動した。
その阿南を、この人以外に陸相はいないとみずから選び、求めたのは鈴木貫太郎その人であった。
歴史に「IF」はない、と言われるが、もし、この二人があの時、政府の中枢にいなければ、終戦の決断はもっと遅れたかもしれない。
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