点と線/松本清張
「あれは、九州の博多行の特急だよ。あさかぜ号だ」
安田は、女二人にそう教えた。
列車の前には、乗客や見送り人が動いていた。あわただしい旅情のようなものが、すでに 向かい側のホームにはただよっていた。
このとき、安田は、
「おや」
と言った。
「あれは、お時さんじゃないか?」
え、と二人の女は目をむいた。安田の指さす方向に瞳を集めた。
「あら、ほんとうだ。お時さんだわ」
と、八重子が声を上げた。
本書は40年位前に読んだ初めての松本清張の小説である。
40年ぶりに再読し、改めてストーリーの巧みな組み立てに感心させられた。
謎解きのキーになるのは、東京駅の13番線のホームから15番線のホームを見渡せる4分間。
この4分間が犯人のアリバイ作りに利用される。
偶然を装った必然である。
この時の目撃証言が事件を迷宮へと誘い込む。
偶然と必然、人間の先入観、愛と性、権力と欲、
こんなものから逃れられない人間の業が描かれている。
清張ワールドの原点がここにある、と思わされた。
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