スポーツニュースは恐い/森田浩之
脅かしているわけではない。スポーツニュースは言葉の裏側で、私たちにいろんなことを教え込もうとする。「日本人として生きるうえで大切なこと」を教え、「日本人らしさ」とは何かを語り、私たちに「日本人であること」を忘れさせまいとする。
スポーツニュースは私たちに〈日本人〉であることを刷り込んでいる。
本書の主題は、スポーツニュースによって、刷り込みが行われているということ。
例えば、サッカーの国際試合では、日本人はみんな日本チームを応援し、国家を歌い、国旗を抵抗なく受け入れる。
普段、国家や国旗を否定している左側の人もその時は抵抗なく受け入れる。
そして、女子選手にはやたら「ちゃん付け」する。
完全に「おやじ目線」である。
優勝した選手には、家族の応援や、生まれてから今に至るまでの苦労話を取り上げ、やたら感動物語をつくろうとする。
そもそもスポーツニュースは、スポーツそのものより「人」のことを伝えようとしている。
あのプレーのどこがすごかったか、この選手はなぜ勝てたかという競技そのものの話にはそれほど触れない。
それよりも、プレーする選手の決意や努力、喜びや失望、苦難と鍛錬といった「物語」に関心を向けさせようとする。
スポーツニュースは「人」のことを話していると、ときおりテンションが上がるらしく、よけいな物語を語りはじめる癖がある。
厄介なのは、スポーツニュースの描くヒーロー像がワンパターン、矮小化されているということ。
日本人の自画像が、ちんまりとスケールが小さくて、ちょっと時代に合っていないということ。
スポーツニュースはヒーローの理想像を無意識に頭のなかに描いており、そこへ向けて無意識のうちに紙面をつくっているように思える。
そう考えると、著者のいうように、スポーツニュースによって、無意識のうちに刷り込みが行われているという主張も分かる。
ヒトラーの時代からスポーツは刷り込みに利用されてきた。
政治に利用されてきた。
たかがスポーツされどスポーツ、ということではないだろうか。
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