憲法で読むアメリカ史/阿川尚之
「名誉の戦死を遂げた者たちが、最後の力をふりしぼって果たそうとした使命を、われらは一層の献身をもって果たさんとす。
そして、ここに決意を新たにせん。勇者たちの死を無駄にはせぬと。神のもとでこの国は新しい自由の生命を授かると。人民の人民による人民のための政治は、決してこの地球上から消え去ることはないと」
これは有名なリンカーン大統領の演説である。
戦いの行き着くところがようやく見えはじめた1863年のこと。
もっとも激しい戦闘が行なわれ南北両軍合わせて二万人近い戦死者を出したゲティスバーグでの演説。
南北戦争もそうだが、アメリカ合衆国史上重要な事件は、ことごとくと言ってよいほど憲法の解釈と結びついている。
建国当初の連邦と州の権限争い。
奴隷制度の国政における位置づけ。
連邦のあり方と南北戦争の勃発。
戦後の南部再建と解放奴隷の地位。
産業革命における資本家と労働者・農民との対立。
二度の世界大戦と大統領の強大な戦争権限の行使。
大恐慌に端を発したニューディールと連邦規制権限の拡大。
冷戦と言論の自由。
人種差別の撤廃と黒人の地位向上。
その他各時代の重要な政治問題は、ほとんど例外なく憲法問題でもあった。
憲法と真剣に向き合い、もし憲法が現実と合わない場合は修正する。
これと比較して、日本は憲法解釈の問題と重要な事件が結びつくことはそれほど多くはない。
日本の場合、憲法は建前であり、どうにでも解釈する。
だから真剣に憲法を変えようという機運が起こらない。
国の成り立ちがこの違いを生んでいるのではないだろうか。
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