二人で一人の天才/ジョシュア・ウルフ・シェンク
まわりを魅了する人と、やんちゃ者。優しい微笑みの人と(いたずらをするときさえ慎重だった)、茶目っ気のある笑顔の人(永遠の不安定さを隠しとおした)。彼らと一緒にいると、2人の違いが絶えず補完し合うことに感銘を受けた。「ジョンにはポールの注意力と忍耐が必要であり、ポールにはジョンのアナーキーな横道の思考が必要だった」と、ジョンの最初の妻シンシア・レノンは書いている。
この世を変えるような偉大な創造は一人の天才がそれを生み出す。
これが一般的な常識である。
ところが本書は、偉大なペアの化学反応によってそれらは生まれる、と言っている。
偉大なペアは大きく違う2人であり、かなり似ている2人でもある。
この相反する要素が同時に成り立つことが、深い感情的な絆を生み、クリエイティブ・ペアに欠かせない衝突を駆り立てる。
創造的な2人が出会って「クリエイティブ・ペア」を組み、関係が発展して、全盛期を謳歌し、突然あるいは必然的な幕切れを迎える。
本書は、そんな「ペアの生涯」を6つのステップでたどりながら、創造性と人間関係のダイナミズムを描き出している。
ステップ1:邂逅
ペアを組むことになる相手と出会い、人間関係の化学反応が始まる。
ステップ2:融合
互いに関心を持った2人はペアという呼び名にふさわしくなり、「私」より「私たち」が前面に出てくる。
ステップ3:弁証
2人の役割や位置関係が見えてくる。
ステップ4:距離
さまざまなバランスを取りながら関係が発展する。
ステップ5:絶頂
やがて2人のクリエイティビティが花開くが、ペアの力学に微妙な変化も生じる。
ステップ6:中断
そして、出会いがあれば別れが訪れる。
だたし、真のペアになった2人の関係は、本当の意味で終わることはない。
なかでも象徴的な存在は、ジョン・レノンとポール・マッカートニーである。
彼らの軌跡はまさに、クリエイティブ・ペアの6つのステップを再現している。
ポールは慎重で几帳面だった。
いつもノートを持ち歩き、詩やコードをていねいに書き留めていた。
対照的に、ジョンはカオスのなかを生きていた。
いつも紙切れを探してはアイデアを書きなぐった。
ポールはコミュニケーションの達人だったが、ジョンは自分の考えをうまく説明できなかった。
ポールが外交官なら、ジョンは扇動者だ。
ポールは穏やかな物言いで、ほぼどんなときも礼儀正しい。
ジョンは尊大な物言いで、きわめて無礼だった。
ポールは1つのパートを仕上げるために何時間でも費やすが、ジョンは気が短くて、すぐに次へ行きたがる。
ポールは自分のやりたいことを明確に理解していて、批判されると腹を立てることも多かった。
ジョンのほうがはるかに神経は図太く、他人の言葉に耳を傾けた。
特別なこだわりがないことなら変化も素直に受け入れた。
この2人が融合したとき、あのビートルズの全盛時の名曲の数々が生まれた。
そのことを考えると、「二人で一人の天才」という本書の主題は確かに頷けるものがある。
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