謙虚なコンサルティング/エドガー・H・シャイン
謙虚なコンサルティングでは、これまでとは全く異なる関係をクライアントと結ぶことになる。コンサルタントとして、「なんとかして役に立ちたい」と思って全力を尽くすこと、誠実な「好奇心」をあふれんばかりに持つこと、適切な「思いやりのある」姿勢を持つこと、クライアントの本当の思いを積極的に突きとめようとすることが前提になるのである。
優れたコンサルタントに抱く一般的なイメージは、クライアントの抱えるどんな難題でも、「答えはこれです」と正解をしめす存在、というものであろう。
しかし、現在、クライアントが抱える問題は、非常に複雑になってきている。
それほど単純なものではない。
著者は、いまのような時代、求められるのは「謙虚なコンサルティング」であると言っている。
そして、本当の支援とは、コンサルタントの手助けによって、クライアントが、問題の複雑さと厄介さを理解し、その場しのぎの対応や反射的な行動をやめて、本当の現実に対処することであるとしている。
自分が手助けすることによって、相手が「気づく」ことに集中する、これが、謙虚なコンサルティングの最大の特徴といえる。
注目すべきは、主語が「クライアント」である点だ。
コンサルタントは自分で答えを出すのではなく、クライアントが自ら道を見出せるよう支援する。
重要なのは、どんな問題に悩まされているかをクライアントが隠さず話せること、それも遠慮なく安心して話せること。
そのため、謙虚なコンサルティングでは、クライアントとのあいだにこれまでにない個人的な関係が必要である。
そのためのポイントはクライアントとの関係性である。
どんな関係性が理想的なのか。
著者は4つのレベルを示している。
レベルマイナス1は、ネガティブな関係。
これは問題外。
レベル1は、取引上の、お役所的な、ほどほどの距離を保った関係。
専門家としてほどほどの距離を保つレベル1の関係は、支援者が問題を正しく診断し、いつでも使える有効な解決策を持っているかぎりはうまくいく。
しかし、これではクライアントは、心の内にある本当の問題を話してくれない可能性があり、本当の解決には至らないことが多くなる。
レベル2は、個人的な関係。
このレベルの本質は、クライアントが「支援される人」、つまりほどほどの距離を保つ必要のある他人ではなくなり、もっと個人的な話のできる、唯一無二の相手になることである。
レベル3は、親密さ、愛着、友情、恋愛感情。
レベル2で生まれる関係は深すぎるものではないが、それを超えた「親密な」あるいは「近しい」間柄と呼ばれるのが、レベル3の関係である。
このレベルの関係では、より強い感情が絡んでおり、レベル2の信頼や率直さがすべて築かれたうえでさらに、必要に応じて熱心に支援し合い、気持ちや愛情のこもった態度を互いに積極的に示すことが当然だと考えられる。
しかし、組織に関する仕事では、レベル3の関係は避けたほうがいい。
なれ合いや身内びいき、えこひいきとなってしまう。
これらは、仕事をするうえでさまたげになる。
謙虚なコンサルティングをするためには、レベル2の関係を築くことである。
それによって、信頼し合い、率直かつ誠実に話していることを双方が信じられるレベルの心地よさを得られる。
レベル2と言っても、率直さや信頼が意味する範囲はやはり広い。
謙虚なコンサルタントは、より個人的なことを尋ねるか打ち明けることによってレベル2の関係を築く必要がある。
同時に、レベル1の特徴であるほどほどの距離を保つ堅苦しさや、レベル3の親密な間柄でされるような質問や個人的な話をしてプライバシーの侵害だと感じさせたりするのは避けなければならない。
コンサルタントにとって、クライアントとの距離感がいかに重要であるかということではないだろうか。
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