南京事件」を調査せよ/清水潔
利益や利害を主張するイデオロギーと、真実を伝えるべきジャーナリズム。
この二つは決して交わることはない平行線だ。
いわゆる南京大虐殺には様々な説がある。
南京大虐殺は事実だという説。
そんなものはねつ造で、なかったという説。
虐殺はあったが30万人と言うほどの大虐殺ではなかったという説。
それぞれの主張の本を読んだことがある。
本書は「南京大虐殺は事実だ」という立場で書かれている。
読んでみると、著者の政治的な立場というものが著書の内容に色濃く反映している。
様々なインタビューや過去の日記の類が掲載されているが、そのほとんどは反対派が真偽の程に疑問を呈しているものばかり。
本書中の日本兵の証言は貴重だとは思うが、もともと「殺し合い」である戦争状態において、その「殺し合い」が「国際法違反の虐殺」であったかどうはかは別の話。
その部隊が何月何日の何処で、上官がどの様な状況で判断し命令を下したのか、等をも含めて状況が分らないと、判断できない。
それを検証もなしに載せている。
著者は「一次資料にあたれ」といいながらその証言内容の状況の把握を更に多面的に掘り下げずに、自説に都合の良い「捕虜を殺したというだけの程度の」ものだけを追加して取り上げて推論を組み立てていく強引さが見受けられる。
新たな証拠による「戦闘における国際法違反」の存在の証明を期待したのだが、残念ながら本書のこの程度の論理の展開では証明したことにはなっていない。
著者は事実と言っているが、実際にはイデオロギー色が強い。
本書の中で、政府が集団的自衛権の法案を強行採決したと批判しているが、これが著者の政治的立場であろう。
南京大虐殺や従軍慰安婦と言った様々な議論のある問題は、1冊だけ読んで分かったつもりになることは危険だ。
面倒でも両方の立場の本を読み、後は自分の頭で考えることが必要ということではないだろうか。
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