隠された貧困/大山典宏
生活保護は、社会におけるカナリアのような存在です。社会のなかで何か問題が発生した時、最初に矛先が向かうのは、決まって貧困に苦しむ人たちです。そして、それを支える生活保護に矛盾が集中することになるのです。
何かと批判の多い生活保護。
確かにそれを悪用する輩もいる。
しかし、生活保護を通して、社会の暗部が見えてくるのも事実である。
生活保護は、社会におけるカナリアのような存在だと著者は言う。
昔は炭坑に坑夫が入っていくときに、先頭を歩く人が必ずカナリアの入った鳥籠をぶら下げたという。
炭坑がある地中には、有毒なガスが漂っている危険性がある。
昨日は大丈夫だったからといって、今日、大丈夫とは限らない。
地震かなにかで地盤が崩れて、どこからかガスが漏れてくるかも知れない。
カナリアはそういうガスに敏感なので、人間よりもずっと早くガスの影響を受けてしまう。
さっきまで元気だったカナリアがぐったりとしてしまったら、それは危険のサイン。
その時点で手を打てば、この場合は、すぐに引き返して炭坑をでれば生命が助かるわけだ。
今、生活保護はとても具合が悪そうにみえる。
ちょうど、ガス溜まりに近づいたカナリアのように、ぐったりとして元気がない。
その時に、「なぜ、このカナリアは黙ってしまったのだ。早く元気にしろ」と言うのはおかしい。
カナリアが問題なのではなく、危機が迫っていることに気づかなければいけない。
苦しんでいるカナリアを見てその原因を突き止め、一刻も早く手当することが必要だ。
人は、見たくないものを、「見なかったことにする」という特技を持っている。
路上死、ホームレス、外国人・残留孤児、カード破産、アルコール依存、社会的ストレス、中高年リストラ、若年層の不安定生活、虐待、暴力、孤独死、自殺、そして低所得問題。
これらは、日本社会の暗部であり、見たくないものである。
しかし、これらから目をそらしてはならないということであろう。
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