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2017年12月15日 (金)

不死身の特攻兵/鴻上尚史

Photo 何度目の帰還の時か、司令官が軍刀の柄を両手で摑み、ギラつく目で佐々木をにらみつけた。
 「きさま、それほど命が惜しいのか、腰抜けめ!」
 佐々木伍長は落ち着いた声で答えた。
 「おことばを返すようですが、死ぬばかりが能ではなく、より多く敵に損害を与えるのが任務と思います」

軍隊は階級社会である。

命令は絶対だ。

その命令がどんなに無意味でもトンチンカンでも不合理でも、絶対服従が軍隊のルールである。

それが軍隊を軍隊たらしめている唯一の原則だ。

戦時中、日本軍のトップは明らかに不合理な命令を繰り出していた。

それによって多くの兵隊が死んでいった。

中でも特攻隊は、その最たるものだった。

しかし、そのような理不尽な世界で、9回出撃して、体当たりしろという上官の命令に抗い、爆弾を落として、9回生きて帰ってきた男がいた。

名前は佐々木友次。

その時、彼は21歳の若者だった。

佐々木伍長は単なる臆病者ではない。

大型船を撃沈するという戦果を挙げて戻ってきている。

自分たちの損害を最小に食い止め、戦果を最大化するというのが戦争だとするならば、非常に合理的な判断をしているのである。

パイロットの使命は、敵艦に爆弾を落とし、沈めることにある。

体当たりは、そのための手段に過ぎない。

ところが、日本軍では、手段が目的になってしまっていた。

つまり、敵艦に体当たりして潔く死ぬことが目的になってしまっていた。

ここに日本人の精神構造の特殊性があるように感じる。

それとともに、あの時代、どんな圧力があろうとも、合理的な判断をもって自分の信念を曲げなかった男がいたということに驚きを禁じ得ない。

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