日本に今一番必要な男 黒田官兵衛/原口泉
黒田官兵衛という人間には、冷徹な計算、戦略、知謀に基づいて行動する「知の人」の部分と、おそらく幽囚時代に味わったような知の限界を知り、臣民への配慮や、ときには劣勢の敵方へも思いやりを示す「情の人」の部分があった。
普通に考えれば、「知」と「情」とは相反するものである。
人間はつねにその相克に悩んできた。
有名な夏目漱石の『草枕』の冒頭、
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ」
にもあるように、人はみな、「知情意」のせめぎ合いで生きてきたと言える。
まさに黒田官兵衛の一生は、そうした難しい選択の連続だった。
その中で彼がどう身を処したかは、現代に生きる私たちにも、大きな示唆を与えてくれる。
官兵衛の事績をたどってみると、一筋縄ではいかない人間像が浮かび上がる。
官兵衛は、知に不可欠な「情報力」と他を慮る「情の深さ」、二つの「情」を併せ持っていた。
それが互いに相乗作用を引き起こし、二乗にも三乗にも膨れ上がった。
だからこそ、官兵衛は、明治まで大大名として生き残った黒田家の礎になったにちがいない。
おそらくそれは、「知」だけに溺れない、「情」だけに流されない、対立・矛盾する知と情を統合できる新たな「合理」というようなものかもしれない。
そして、いまの日本のリーダーに必要なのも、「知」と「情」の統合なのではないだろうか。
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