一流は知っている!ネガティブ思考力/榎本博明
心理学者チビ=エルハナニたちは、対人不安と共感能力の関係を検討する調査と実験を行っている。その結果、対人不安の弱い人より強い人の方が、他者の気持ちに対する共感性が高く、相手の表情からその内面を推測する能力も高いことが証明されている。
今の世の中、ポジティブ信仰であふれている。
テレビでも松岡修造的なキャラがもてはやされる。
しかし、ポジティブ信仰にはまっている人の中には、「今のままの自分でいいんだ」「自分はこのままでいいんだ」と思い込んでいる人が少なくない。
それでは成長がない。
人間は自分の負の部分を見つめ続け、克服することによって成長する。
ところが、ポジティブでありたいという思いが強い人は、自分の中の不安とか弱い気持ちとかを否定し、それらに目を向けようとしない傾向がある。
他人の不安とか弱い気持ちにも共感できず、否定的な態度を取る。
ポジティブな気分を維持するのが上手なタイプには、自分の失敗に目を向けない、失敗を直視しようとしない傾向がみられる。
失敗を振り返れば、「やらかしちゃった」「またやっちゃった」「参ったなあ」とネガティブな気分になる。
だから、振り返ることを極力避けようとする。
覚えておきたいのは、失敗を振り返る自分は、すでに失敗した自分を乗り越えているということだ。
失敗した自分は、たしかに思慮が浅かったかもしれない。
慎重さが欠けていたかもしれない。
態度が未熟だったかもしれない。
しかし、そのことを理解し、あれはまずかったと反省している今の自分は、当時の自分と比べて、かなりマシな存在になっている。
そこに気づくべきである。
実際、心理学的な実験により、ネガティブな気分が記憶の機能を向上させ、判断の誤りを防ぐことが証明されている。
さらにネガティブ気分が記憶能力を向上させるだけでなく、対人認知能力も向上させることがわかっている。
気分がネガティブなときの方がポジティブなときよりも相手を正確に判断できるなど、にわかに信じがたいかもしれない。
だが、心理学の実験によって、これも証明されているのである。
もっとネガティブ思考の良い面にも目を向けるべきだろう。
« 日本人の発想中国人の発想/孔健 | トップページ | 成功の戦略/江上剛 »