成功ではなく、幸福について語ろう/岸見一郎
三木は、幸福と幸福感は違うということを前提に次のようにいっています。
「成功するということが人々の主な問題となるようになったとき、幸福というものはもはや人々の深い関心でなくなった」(『人生論ノート』)
本書は、三木清の『人生論ノート』を題材にして、幸福について考察をしたもの。
まず、押さえておきたいことは、成功と幸福とはイコールではないということ。
幸福は各自においてオリジナルなもので、質的なもの。
他方、成功は一般的なもの、量的なもの。
幸福は各自においてオリジナルなものであるというのは、幸福はその人だけに当てはまるのであり、その人にとっては幸福であることでも、他の人にとっては、幸福であるとは限らないということでもある。
また、幸福は存在に関わり、成功は過程に関わる。
三木によれば、成功は進歩と同じく直線的な向上として考えられる。
他方、幸福には本来、進歩というものがないということを指摘している。
幸福は存在だというのだ。
過程ではない。
今をこうしてここで生きていることが、そのままで幸福であるという意味。
どういうことかというと、幸福であるために何かを達成しなくてもいいということ。
実は私たちは既に幸福で「ある」のに、そのことに気づいていないだけなのだ。
だから、そのことに気づくという意味で、私たちは幸福に「なる」。
そういうことを知れば、何かを達成しなくても、今このままで幸福であるということに気づいた時に、人はその瞬間に幸福になる。
人間がもしも、今日という日を今日という日のためだけに使えたら幸福になれる。
でも、過去を思って後悔し、未来を思って不安になる。
その両方を手放すことが、これからの人生を生きていく上で大事なこと。
今はこれからの人生の準備期間ではないということ。
今はリハーサルではなく本番。
「今を生きる」
これが幸福だといえるのではないだろうか。
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