感じる経済学/加谷珪一
常に新しいものを取り込んでいくのが日本の伝統であり、これがうまく機能していたからこそ、日本は経済的に成功することができたのです。そう考えると、最近の風潮はむしろ日本の伝統を破壊しているようにさえ思えます。
このところ、日本の製造業が衰退しており、それを危惧するという話をよく耳にする。
そして、モノづくり大国ニッポンの復活ということばが躍る。
つまり伝統的な製造業への回帰である。
しかし、日本の製造業がここまで発展することができたのは、伝統的な製造業を守ったからではなく、ことごとく古い製造業を破壊し、常に最先端の技術を追いかけてきたからだ。
たとえば、日本が戦後復興を遂げた時点では、自動車はまだまだ小さい産業だった。
戦前の主力産業は紡績であり、政府は石炭や鉄鋼などを主力産業にするという計画を立てていた。
自動車産業など論外という状況だった。
自動車というのは、当時としては、新しくてよく分からない、技術だった。
現在にあてはめれば、グーグルの検索エンジンやAIのようなものだろう。
しかしトヨタは、自動車の将来を信じ、ブレることなく開発を進めた。
もし、トヨタが伝統的な製造業に力を入れるべきだという社会の風潮に負けて、開発をやめてしまっていたら、今の日本はない。
いつの時代においても新しい技術が登場すると、まずは全否定される。
これを今の時代に当てはめると、グーグルの検索エンジン、AI、ビットコインなどがこれに相当する。
かつてはトヨタやソニーやといった、逆風に負けない反骨精神のある会社が登場してきた。
日本は常に、古いものは捨て去り、新しいものを追いかけてきた。
伝統を守るべきというのであれば、むしろ、このような伝統を守るべきだろう。
« 町工場の娘/諏訪貴子 | トップページ | 突き抜ける人は感情で動く/芦名佑介 »