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2018年11月16日 (金)

藪の中/芥川龍之介

Photo わたしは思わず夫の側へ、転ぶように走り寄りました。いえ、走り寄ろうとしたのです。しかし男は咄嗟の間に、わたしをそこへ蹴倒しました。ちょうどその途端です。わたしは夫の眼の中に、何ともいいようのない輝きが、宿っているのを覚りました。何ともいいようのない、――わたしはあの眼を思い出すと、今でも身震いが出ずにはいられません。

この芥川龍之介の小説、黒澤明映画の「羅生門」の原作でもある。

ストーリーは次のようなもの。

藪の中で、男の刺殺体が見つかる。

発見者の木樵り、男とすれちがった旅法師、盗人の多襄丸を逮捕したことのある下役人、男の姑の証言から物語が始まる。

その後、現場にいた三人、犯人として逮捕された盗人の多襄丸、殺された男の妻・真砂、そして殺された男・武弘の死霊の詳細な証言が繰り広げられるが、なんとしたことか、同じ現場にいて、同じ状況に遭遇したはずなのに、三人のストーリーがまるで異なる。

しかも、三人とも自分が加害者であると主張する。

多襄丸によると、行為の後、生き残ったほうに連れ添いたいという妻の言葉を聞き、かつ妻の燃えるような瞳を見て、男を殺そうと思ったという。

妻・真砂によると、多襄丸が去った後に、木に縛られていた夫の〝冷たい蔑みの底に、憎しみの色を見せている〟眼を見て夫を刺したという。

巫女の口を借りて殺された夫の死霊が言うには、妻が多襄丸に「どこへでも連れて行ってください」「あの人を殺してください」と叫んび、一人になった隙に、落ちていた小刀で自分の胸を刺した、と言う。

まさに、真相は藪の中。

同じ場所にいて同じ事件に遭遇したはずの三人のストーリーがあまりに食い違っている。

三人とも自分が加害者であると主張する。

真相はどうなのか。

真相とは何なのか?

真実は知り得るものなのか?

人が語るすべてのことは、個人の主観的フィルターを通してインプットされ、アウトプットされたものだということを理解することが必要だということではないだろうか。

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