日本人と中国人/陳舜臣
川端康成がかつてハワイ大学で、日本のこころとして、しきりに『以心伝心』のことを説いた。
この言葉そのものは、中国の宋代の僧道原の編した『景徳伝灯録』から出ているが、説得を抜くところは、まちがいなく日本の性格である。
直木賞作家、陳舜臣氏が日本人と中国人を比較して論じている。
ここではその一つの例そして「以心伝心」について書いている。
陸つづきの中国には、支配地を安心して託すべき海がない。
いつも外敵に眼を光らせていなければならず、異分子の流入も避けがたい。
島なら土地は限定されているが、大陸の場合は、好むと好まざるとにかかわらず、一つの政権の支配地は、ときには拡大し、ときには縮小する。
拡大すれば、そこには新しい条件が生み出され、異分子を抱え込まざるをえない。
それをまとめようとするには、眼くばせ一つで事足りるというわけには、いかないのである。
どうしてもゆるがせにできないのは、説得の努力なのだ。
だから説得なしの「以心伝心」はあり得ない。
一方、同じ「以心伝心」という言葉を使っても日本では全く意味が違う。
文字や言葉を使わなくても、お互いの心と心で通じ合うことを言う。
本書は50年近く前に書かれた本である。
この当時と今とでは、世界における日本の立場は全く違う。
この当時は、日本も「以心伝心」でもよかった。
しかし、今日、日本の「以心伝心」の姿勢は日本に不利に働いている。
特に世界に対しては、以心伝心ではなく「主張すべきことははっきりと言葉で主張する」ことが大事になってきている。
その意味で、時代の流れを感じさせる本である。
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