人間関係において、もっとも厄介なのが「半径五メートル」の人間関係だ。
会社の問題の半分以上は人間関係の問題だというのが実感するところだ。
会社を辞める理由のトップもやはり人間関係の問題だ。
学生時代、どんなに勉強が嫌いでも、学校に仲のよい友達がいれば、それだけで学校は楽しかったはず。
逆に、いくら成績優秀の生徒でも、学校に友達がひとりもいなくて、しかもいじめにでも遭っているとしたら簡単に不登校になってしまう。
会社も同じ。
社内の人間関係が円満なら、多少給料が安くても我慢して働くことができる。
それどころか、ちょっとした愛社精神も芽生えて「もっとがんばって、この会社を大きくしよう」という気持ちにさえなるもの。
特に近すぎる関係、「半径五メートル」の人間関係では、とんでもなく下らないことがストレスの対象になるから注意が必要だ。
たとえば、「説教するとき唾が飛ぶ」とか「笑い方が気に食わない」とか、そういったレベルでの嫌悪感だ。
これら小さな嫌悪感は、本人も気づかないうちに蓄積されていく。
特に、日本の会社組織にあって、人間関係のストレスは尋常でない重みを持ってくる。
その意味では、会社の規模が小さければ小さいほど、社内の人間関係が従業員の士気に大きな影響を及ぼすことになる。
そして重要なのが、この「半径五メートル」の人間関係は、どんな会社に転職したところで変わらない、ということ。
他者とのコミュニケーションが苦手で、小さな対人ストレスを発散する術も知らないまま「半径五メートル」を息苦しい空間にしてしまったのは、他の誰でもない自分自身なのだ。
その自分の性格や考え方を変えもせず、ただ形だけ転職したところで、必ず同じような「半径五メートル」の悩みが待っている。
下手したら、いまよりもずっと息苦しい空間が待っているかもしれない。
大事なのは「逃げない」こと。
自分とも他者とも向き合わず、ただただ逃げるように転職先を探す。
それでは同じことの繰り返し。
そのような場合、著者は3つの方法を紹介している。
ひとつは、他者から必要以上に好かれようとせず、適度な変わり者になること。
自分の仕事が終わったらさっさと帰り、昼食の誘いや飲みの誘いもすべて断る。
誰とも群れようとしない。
そうすれば、当初は煙たがられるかもしれないが、そのうち「あいつはああいうヤツだから」と、いい意味で割り切ってもらえる。
続いて、別人格を演じるという方法もある。
思いきって「社内での立ち回りこそが、最大の仕事なんだ」と腹をくくって、就業時間中は自分の心に蓋をして別人格を演じる。
ときには聞き分けのよい子分として尻尾を振り、ときには頼りがいのある兄貴分として振る舞い、そして最終的に親分をめざす。
誰とも本音で付き合おうとせず、必要以上に理解を求めようとせず、常に仕事用・会社用の仮面をかぶり続けて過ごす。
おそらく、日本のビジネスマンにはこれがいちばん多いパターンだろう。
そして最後が、腹を立てる前に「たかが仕事じゃないか」と考える道だ。
仕事なんてものは、しょせんヒマつぶし。
そこでいちいち怒りを覚えるのもバカバカしい。
仕事を真面目に考えすぎるから、つまらないストレスがたまる。
受け入れるものは受け入れ、流すものは流して、あとは自分は自分のペースで働く。
自分のペースさえ守っていれば、結果はおのずとついてくるもの。
以上の3つが主な方策。
大切なのは、自分の性格を変えようなどとは思わないこと。
成人した大人が、いまさら性格を変えるなんてできるわけがない。
しかし、たとえ性格は変えられなくても、「考え方」を変えることはできる。
仕事に対する考え方、周囲の人間に対する考え方、自己表現や自己演出に関する考え方を変えていく。
いずれにせよ、会社の中でうまくやっていくためには「半径五メートル」への対応をどうするかにかかっているということであろう。