在野研究者の生と心得/荒木優太
「50本書いてもごらんのとおりルンペンだ。理由は簡単で、方法論と学問基礎理論と実証をやったから。社会科学の場合には、本人自身の感覚が問題なので、それがなければ、おまえは問題意識が狂っている、政治学なんかやる資格がないという。問題意識なんてどうしても主観が入るものだから、あいつの問題意識はなっていないといわれればそれまでなんです。方法論や理論は権力をもって弾圧される。実証はわずかに許されるというわけで、新しい学問をやる人はルンペンにしておく。はっきりいうと、いまの日本の大学はナチスや軍国主義者以下である」
大学や研究室や学会の外にも学問はあるじゃないか、本書はこの問題意識に貫かれている。
読み、書き、調べ、考え、まとめ、発表する一連のプロセスは、誰が許可したでもなく 自生的に立ち上がる。
在野研究とは何か?
漢語で「野」という言葉は、政府の外の民間の場所一般を指した。
「野に下る(下野する)」という表現は、官職を退いて民間の世界に入ることを意味する。
「在野」とは、だからまず第一義には、官(政府)の外の民の世界を指している。
直感的にいえば、在野研究とは、アカデミズムに対するカウンター(対抗)ではなく、オルタナティブ(選択肢)として存在している。
そもそも、18世紀のヨーロッパでいう〈アカデミー〉とは、大学と対抗的な関係にある、新たな知を切り拓く専門家集団のことを指していた。
アカデミズムは元々、大学に飼い慣らされるものではなかったのだ。
本書はそのような在野研究者16人を紹介している。
16人中、私が知っているのは小室直樹一人だった。
上記抜き書きは小室の述べたものとして、本書に紹介されているもの。
小室直樹は社会科学者である。
専門分化した諸学をマスターし、社会科学の統合的な理論構築を目指した。
パーソンズの構造‐機能分析をより合理的な仕方でモデル化した。
また、ソ連の崩壊を科学的に予言したことで注目を浴びた。
主著に『危機の構造』、『ソビエト帝国の崩壊』など、多数の著書がある。
私もその中の数冊は読んだことがある。
印象的だったのは、戸塚ヨットスクールが世間の批判を浴びていた中、戸塚のスパルタ教育をもち上げたこと。
小室は家庭内暴力の原因を、社会学者デュルケムに由来するアノミーに求めた。
小室は大学に属さなかった。
50本もの論文を書いたにもかかわらずだ。
そして年間100万円で生活した。
自らの著書がベストセラーとなり、数千万円の印税が入ってきても、その生活を変えようとしなかった。
小室の特徴は、その分野の第一人者を見るや直接に教えを受けようと、弟子か学生となり、その学問の本質をつかみ取ろうと実行に移したこと。
もしも、直接教えを受けることがかなわなければ、その学者の書物を読み、繰り返し読み、あたかも面前で教えを受けているかのようにその内容を体得しようとつとめた。
すべての学問を知り尽くすべきという小室が示した態度は、全てが全てに関連しているという相互連関分析に深く結びついている。
これが専門分野というタコツボ化しやすい制度で成り立つ大学にうまく受け入れられなかったことは明らかだ。
しかし、どのアカデミズムにも属さなかったからこそ、独自性が生まれたのではないだろうか。
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