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2019年5月 5日 (日)

日の名残り/カズオ・イシグロ

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 私どものような人間は、何か真に価値のあるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実践したとすれば、結果はどうであれ、そのこと自体がみずからに誇りと満足を覚えてよい十分な理由となりましょう。

ノーベル文学賞を取ったカズオ・イシグロ氏の小説。

これは、スティーブンスが仕えていたダーリントン卿の言った言葉。

真に価値のあるものに対して少しでも尽くそうと願うが、それをするだけで十分に価値があるのだということを再認識させてくれる。

ダーリントン卿、物語のなかで、ナチ政権のドイツに宥和政策をとったとして非難されている。

実際、彼は第2次世界大戦前のナチスドイツに対して宥和政策を説き、ダーリントンホールに各国の外交関係者を集めて会議を開いた場面が描かれている。

読後調べてみると、そのモデルは第2次世界大戦直前のイギリス首相であり、対ドイツ宥和政策を主導していたネヴィル・チェンバレンだと考えられているとのこと。

対ドイツ融和政策はドイツに軍事力を増大させる時間的猶予を与えると同時に「ヒトラーに対し、イギリスから近隣諸国への侵攻を容認されたと勘違いさせた」として現在では歴史研究家や軍事研究家から強く非難されている。

特に1938年に署名されたミュンヘン協定は、後年になり「第二次世界大戦勃発前の宥和政策の典型」とされ、近代における外交的判断の失敗の代表例として扱われている。 

と、このように、本作はフィクションだが、史実が元になっている部分もある。

第2次世界大戦前のイギリスの貴族の様子が描かれており、その意味でも興味深い。

 

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