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2019年6月27日 (木)

生きて死ぬ私/茂木健一郎

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 ある時、私は昼下がりの牧場に立って、なだらかな谷に流れる川や、その向こうに見える教会の尖塔を眺めていた。頰には、さわやかな風が当たるのを感じていた。突然、何の脈絡もなく、私は、私の眼前の風景が、私の外側に広がっていると思っている。だけど、本当は、私が感じるこの広大な風景も、私の頰をなでる風も、私の頭蓋骨の中で起こっていることにすぎないのだという思いがわき上がってきた。

脳科学者である著者は、自らの原体験を上記のように述べている。

その時、人間に関する一つの命題が、大きな意味を持つようになったという。

それは、自分の心の中で起こることのすべては、脳の中で生じるニューロンの発火によってひき起こされている、「脳内現象」にすぎないという命題である。

人間の喜びも、悲しみも、すべての感情は、脳の中にある。

人生のすべては、脳の中にある。

自分の外に広がっているように見える広大な世界、目の前の机、窓の外の緑の木、そしてその向こうに広がっている海、空に浮かぶ白い雲も、脳の中の現象にすぎない。

地球、恒星、銀河などの宇宙的広がりも、すべて私たちの脳の中で起こっているだけのことだ。

人間の心は、脳内現象にすぎない

脳科学者として、著者は、心のあらゆる属性は、脳の中のニューロンの発火の特性だけですべて説明できるという「認識のニューロン原理」が基本的には正しいという。

だが、一方では、もし体外離脱体験や、意識の拡大といった現象が実際に存在するとすれば、認識のニューロン原理では説明できない心の性質が存在することを認めざるをえないともいう。

人の心の中で何が起こるにせよ、それは人の脳の中のニューロンの発火によって支えられている。

そのような人の心の中心が、体の外に出てしまうというのは、どのような意味なのか、安易に魂の存在を認めない限り、現時点では説明するのは難しいという。

大切なことは、現時点では超越的に見える現象の存在を否定しないことだ。

そのようなオープンな態度こそが、科学を、より広く言えば、世界に対する人間の理解を、より深いものにすると言える。

世の中には、まだまだ不思議なものがたくさんあふれている。

科学者には可能性と限界があるということ。

これを認めることは大事なことではないだろうか。

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