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2019年7月10日 (水)

チャーチル・ファクター/ボリス・ジョンソン

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 チャーチルの今日的な重要性は、彼が私たちの文明を救ったことにある。重要な点は、チャーチルだからこそこれを達成できたということだ。


「チャーチル・ファクター」、つまりチャーチル的要素とはつまるところ、「一人の人間の存在が歴史を大きく変え得る」ことを意味する。

イギリスは戦う。

ナチと交渉はしない。

その決断から1年以内に3万人に及ぶイギリス人男性、女性、子供たちが殺害された。

ほとんど全員がドイツ人の手によって。

屈辱的な和平か罪なきイギリス国民の大量殺戮かの選択肢を前に、「交渉をしない」という選択ができるチャーチルのような気骨の政治家を現代において想像するのは難しい。

今日、世界に200カ国ほどの国があるうちの、約120カ国は何らかの形の民主主義である。

つまり主権在民を掲げている。

しかしもしヒトラーやスターリンの二人が、あるいはどちらかが最終的な勝者となっていたら、民主主義がこれほど普及しなかっただろう。

チャーチルは、青年時代、というより一生を通じて、並外れた勇敢さを見せた。

チャーチルほど実戦を経験した首相はいない。

チャーチルの原動力は何だったのか?

彼の性格で非常に面白い点であり、同時にその精神的強さの源ともいえたのは、自分の動機について非常に正直であったことだ。

マラカンドでの行動を説明する母への手紙には、目立ちたがり屋であることを自覚していると書いている。

勇敢で気高い行為のためにチャーチルは観客を必要とした。

チャーチルは他者の評価を求めていたのである。

チャーチルは演説の達人としても知られている。

しかし、実際には、チャーチルは独学で演説の達人となったのであり、生まれつき人前で話すのがうまいわけではなかった。

チャーチルは、即興で話すことができなかった。

彼の演説は、気持ちが高揚して心の底から自然に出てきた言葉ではけっしてなかった。

ヒトラーは言葉の力でいかに邪悪なことができるかを示した。

チャーチルは言葉の力が人類を救うことを示した。

ヒトラーの演説とチャーチルの演説との違いは、ヒトラーは自身を万能に見せたが、チャーチルは聴衆の万能感を引き出したことだろう。

世界史に巨大なインパクトを与えた他の幾人かの人物を思い起こすことはたやすい。

だがほとんどすべてが悪しき方向へのインパクトだった。

ヒトラー然り、レーニン然り、そのほかについてもそうだ。

決定的に善き方向を向いていた人を何人思い浮かべることができるだろうか。

一人の力で運命の秤を自由と希望の方向に傾けた人物がいただろうか?

そんな人物は多くはないだろう。

その中の一人がチャーチルであることに反対する人はいないだろう。

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