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2019年8月21日 (水)

パクス・ロマーナ――ローマ人の物語Ⅵ/塩野七生

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 アウグストゥス自身が、誰にでも心を開く人ではなかった。状況が苦であろうと楽であろうと関係なく、常に周囲には笑いが絶えず、その向日的性格が周囲の人々までも巻きこんだカエサルとは反対に、アウグストゥスの周辺には常に静けさが漂い、人々は離れたところから彼を見つめるのが、アウグストゥスという人物の対人関係であったのだ。前者が、人々を感動に巻きこめば、後者は、人々を感心の想いで満たした。

志なかばに倒れたカエサルの跡を継いだオクタヴィアヌスは、共和政への復帰を宣言。

元老院は感謝の印として「アウグストゥス」の尊称を贈った。

古代のローマでは、アウグストゥス(Augustus)とは、神聖で崇敬されてしかるべきものや場所を意味する言葉。

カリスマ性のあるカエサルの後を継いだカリスマ性の全くない人物が、いかにしてカエサルが到達できなかった目標に達したか。

ローマを安定拡大の軌道にのせるため、構造改革を実行し、「ローマによる平和」を実現したかが描かれている。

カエサルが、その人間的魅力で周囲を巻き込んでいったオープンで強力な個性の持ち主だったのに対して、アウグストゥスはどちらかというと地味で物静かな性格だった。

しかし、政治家としては、カエサルよりむしろアウグストゥスの方が優れた資質の持ち主と評する人も多い。

実際、彼は、周りに気付かれないように、また、元老院の反発を招かないように、少しずつ権力を手中にしていった。

カエサルから後継者に指名されたアウグストゥスは、目標とするところは同じでもそれに達する手段がちがった。

なぜか。

第一に、何ごとにも慎重な彼本来の性格。

第二は、殺されでもすれば大事業も中絶を余儀なくされるという、カエサル暗殺が与えた教訓。

第三、演説であれ著作であれ、カエサルに比肩しうる説得力は自分にはないという自覚。

これらがあったから。

アウグストゥスは、見たいと欲する現実しか見ない人々に、それをそのままで見せるやり方を選んだ。

ただし、彼だけは、見たくない現実までも直視することを心しながら、目標の達成を期す。

これが、アウグストゥスが生涯を通して闘った、「戦争」ではなかったかと思う。

アウグストゥスは、アレクサンダー大王やカエサルのような、圧倒的な知力の持主ではなかった。

しかし、あの時期の世界は、彼のような人物こそを必要としていたということであろう。  

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