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2019年8月17日 (土)

ハンニバル戦記──ローマ人の物語Ⅱ/塩野七生

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 歴史はプロセスにある、という考え方に立てば、戦争くらい格好な素材もないのである。なぜなら、戦争くらい、当事国の民を裸にして見せてくれるものもないからである。

この巻のメインは、3度にわたって行われたポエニ戦争だ。

ポエニ戦争とは、共和政ローマとカルタゴとの間で地中海の覇権を賭けて争われた一連の戦争である。

紀元前264年のローマ軍によるシチリア島上陸から、紀元前146年のカルタゴ滅亡まで3度にわたる戦争が繰り広げられた。

カルタゴ国滅亡という結果に終るポエニ戦争。

興隆の途にあるローマ人は、はじめて直面した大危機を“ハンニバル戦争”と呼び、畏れつつ耐えた。

戦場で成熟したカルタゴ稀代の名将ハンニバルに対して、ローマ人は若き才能スキピオとローマ・システムを以て抗し、勝った。

ハンニバルとスキピオは、古代の名将五人をあげるとすれば、必ず入る二人である。

現代に至るまでのすべての歴史で、優れた武将を十人あげよと言われても、二人とも確実に入るにちがいない。

歴史は数々の優れた武将を産んできたが、同じ格の才能をもつ者同士が会戦で対決するのは、実にまれな例になる。

第三次ポエニ戦争で、カルタゴ側の戦死者は、二万をはるかに越えた。

そのうえ、二万の兵が捕虜になった。

他は、十日の行程にある首都カルタゴに向って敗走した。

ハンニバル自身は、数騎を従えただけで、ハドゥルメトゥムに逃げた。

ローマ側の戦死者は、千五百。

スキピオの完勝だった。

カルタゴを滅ぼして西地中海の覇権をにぎったローマは、東方では、マケドニアやギリシア諸都市をつぎつぎに征服し、さらにシリア王国を破って小アジアを支配下に収めた。

こうして、地中海はローマの内海となった

ローマ人とカルタゴ人とのちがいの一つは、他民族とのコミュニケーションを好むか否か、であったような気がする。

ローマ人の面白いところは、何でも自分たちでやろうとしなかったところであり、どの分野でも自分たちがナンバー・ワンでなければならないとは考えないところであった。

ローマ軍といえばローマ人だけで構成されており、闘うのも彼らだけであったと考えがちである。

ところが、ローマ人くらい、他民族を自軍に参戦させ、彼らとともに闘った民族もいない。

総指揮権は、ローマ人がにぎりつづけたことは事実である。

また、ローマ市民兵が主戦力でありつづけたことも事実である。

だが、イタリア内では中伊のエトルリア人や南伊のギリシア人、アフリカではヌミディア人、マケドニアが相手のギリシアではマケドニア以外のギリシア人というように、ローマ軍は〝多国籍軍〟であるほうが普通だった。

このような柔軟性がローマ帝国が千年以上も続いた要因の一つではないだろうか。

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