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2019年8月22日 (木)

悪名高き皇帝たち――ローマ人の物語Ⅶ/塩野七生

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 ティベリウスは何一つ新しい政治をやらなかったとして批判する研究者はいるが、新しい政治をやらなかったことが重要なのである。アウグストゥスが見事なまでに構築した帝政も、後を継いだ者のやり方しだいでは、一時期の改革で終ったにちがいないからだ。アウグストゥスの後を継いだティベリウスが、それを堅固にすることのみに専念したからこそ、帝政ローマは、次に誰が継ごうと盤石たりえたのである。


アウグストゥスから帝国を引き継いだ四人の皇帝、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ。

何一つ新しい政治をやらなかったと批判されたティベリウス。

愚政の限りを尽くし惨殺されたカリグラ。

悪妻に翻弄され続けたクラウディウス。

「国家の敵」と断罪されたネロ。

これら悪名高き皇帝たちの治世の実態とはいかなるものだったのか。

ユリウス・カエサルが青写真を引き、それにそってアウグストゥスが構築し、ティベリウスによって盤石となった帝政ローマ。

カリグラが受け継いだのは、このローマであった。

しかしカリグラが即位してから3年も過ぎないうちに、皇帝の私有財産はもちろんのこと、国家の財政の破綻までが明らかになった。

ティベリウスが遺した2億7千万セステルティウスもの黒字分は、種々の娯楽スポーツの提供で、とうの昔に使い果していた。

その後はやりくりして穴を埋めていたのだが、それも治世が3年目に近づく頃ともなると、やりくりの手段もつきてしまう。

だがカリグラには、これまでのやり方を一変させることなどできなかった。

クラウディウスは身体的コンプレックスを抱え、歴史研究を愛しながらも図らずも皇帝となる。

帝国のインフラ基盤を整備しブリタニア遠征を行うなどしたが、内向的な性格が災いを招くこととなる。

ローマの歴史で、帝政時代にかぎらず共和政時代をもふくめた全歴史中で最も名の知られた人物は、ユリウス・カエサルでもなくアウグストゥスでもなく、ネロであろう。

もちろんそれは悪い意味でである。

ネロには、問題の解決を迫られた場合、極端な解決法しか思いつかないという性癖があった。

それは、彼自身の性格が、本質的にはナイーブであったゆえではないかと想像する。

しかし、これら無能で悪の権化のような皇帝が治めるローマはなぜ崩壊しなかったのか。

比較少数であろうと複数の人が統治権をもつ共和政とちがって、一人に統治権が集中する君主政の欠陥は、チェック機能を欠くところにあると考えられている。

事実、帝政であろうと王政であろうと、人類が経験した君主政のほとんどはチェック機能を欠いていた。

ところが、アウグストゥスが創設したローマの帝政にだけは、チェック機能が存在した。

つまり、カエサル、そしてアウグストゥスの築き上げた遺産によって、この時代の帝政ローマは維持されていたといえるのではないだろうか。

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