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2019年8月25日 (日)

すべての道はローマに通ず――ローマ人の物語X/塩野七生

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 ローマ人は、現代人から「インフラの父」と呼ばれるほどインフラを重視した民族だった。インフラストラクチャーという合成語をつくるときも、ラテン語から引いてくるしかなかったほどに、ローマ人とインフラの関係はイコールで結ばれていると言ってよい。すべての道はローマに通ず、の一句は、誰もが知っているように。


本書は「インフラの父」と呼ばれたローマ人の最大の強みを解明したシリーズ番外編。

歴史上比類なき一大強国を築き上げ、数百年以上にわたり、維持・発展させたローマ帝国。

本書では、街道や橋の美しい写真などがふんだんに使用されている。

街道の位置は地図が参照につけられ、橋、水道などとともにその構造や工事方法も解説されており、興味深い。

合理性という側面において、ローマ人は古代でも稀な民族だという。

このことは帝国発展の一因でもあるが、インフラ整備の重要性を彼等が当たり前のように認識していたという事実に、驚かされる。

ローマの真の偉大さの源泉は、インフラストラクチャーの整備にあったといえる。

すべての道はローマに通ず、よりも、すべての道はローマから発す、と考えたほうが実態の正確な把握には役立つのではないだろうか。

人間の肉体のすみずみにまで張りめぐらされた血管のように帝国の全域を網羅することになるローマ式の街道網も、アッピア街道からはじまっている。

そして、街道には欠くことのできない橋も、首都ローマを流れるテヴェレ河にかけられた一本の橋からはじまった。

人と物が頻繁に交流するようになれば、経済も活性化する。

帝国全域に張りめぐらされたローマ街道網は、ローマ帝国を一大経済圏に変えた。

このローマ経済圏は、現代のEUどころではない。

ヨーロッパと中近東と北アフリカを網羅するという、二千年後の現代人でさえも実現していない規模の広域経済圏であった。

そして、経済圏が機能するのは、平和が持続できてこそである。

「ローマによる平和」とは、外敵に対する防衛に成功したから持続できたとするのは、半ばしか正解でない。

多民族国家ゆえに起りがちな帝国内部の紛争の解消にも成功したから、長命を保てたのである。

しかも、ほぼ三百年の長きにわたっての平和だ。

そして、この「パクス・ロマーナ」を維持していくうえで貢献したのが、ローマ街道であった。

人間でも健康を保つには、その人間の体内のすみずみにまで血液を送れる血管が機能していなければならない。

ローマの街道網が、それであった。

これが、20万にも満たない軍団兵だけで、大帝国の安全保障が維持できた最大の要因であった。

本書は街道、橋、水道のハード・インフラと医療、教育のソフト・インフラの両面から「ローマの本質」を描き尽くしている。

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