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2019年9月14日 (土)

43回の殺意/石井光太

43

 虎男はカッターを握り直し、そんな遼太の首を三回ほど切りつけた。遼太は「うっ」と叫んで、痛そうに顔をゆがめる。虎男は遼太のタンクトップが血で赤く染まっているのを見て初めて、自分のしていることの重大さに気づいた。初めは痛めつけることが目的だった。だが、これだけの傷を負わせれば、警察に捕まるのは明らかだ。それに吉岡兄弟にだって半殺しにされる。――もう殺すしかない。

2015年2月20日、神奈川県川崎市の多摩川河川敷で13歳の少年の全裸遺体が発見された。

少年の全身に刻まれた作業用カッターによる切創は43カ所に及び、そのうち首の周辺だけでも31カ所に達していた。

もっとも重い傷は左頸部にあるもので、長さは16.8センチ、深さは1~2センチ、小動脈は真っ二つに切断されていた。

他にも11.5センチや9.5センチに及ぶ傷もあり、首の筋肉は無残に切られ、背中、足、額の皮膚は剥がれている。

事件から1週間、逮捕されたのは17歳と18歳の未成年3人。

逮捕された3人はゲーム仲間だった。

しかし、グループの面々はゲームやアニメに向き合うばかりで、相手のことを理解して友情を深めるということをしてこなかった。

そんな少年たちが一時の感情で暴力をふるい、留まるところがわからずに起こしたのが、今回の事件だった。

社会や家族といったセーフティーネットから漏れた場合、最後に頼りになるのは友人のような近しい人との関係だ。

だが、彼らは毎日のようにゲームセンターや公園に集って明け方まですごしていながら、信頼関係さえ構築することができず、暗黒の底へと転がり落ちていってしまった。

遼太に対する43回にのぼった暴行は、まさに彼らのそんな内面を示している。

仲間に対する虚勢、思いやりの欠如、人間不信、逮捕への不安、報復されることの恐怖、現実に対する諦念……。

彼らはそんな理由で一回また一回と無抵抗の遼太を切りつけているうちに、それが本物の殺意へと変わっていった。

「殺人を犯すような悪い奴らは、殺せばいいと思う。殺人は被害者から生きる権利を奪い取る行為です。そんな罪を犯した人間が、なんで生きる権利を守られなければならないのでしょう。」

こう訴える、殺された遼太の父親。

その気持ち、痛いほどよくわかる。

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