フランス人は「老い」を愛する/賀来弓月
フランス人が「La vie est belle(ラ・ヴィ・エ・ベル)」と叫ぶときに込める思いは、「人生を思い切り楽しもう」「生きる喜びを精一杯享受しよう」「人生を楽しく有意義なものとするために、自分自身で考え、自分独自の道を切り拓こう」というものでしょう。フランスの高齢者は老いを賛美するためにこの言葉を発するのです。
日本は今、高齢化の問題に直面している。
日本は老いることを否定的にとらえる人が多い。
しかし、フランスには老いを「人生の実りと収穫の秋」と考える文化がある。
事実、フランスでは年を重ねても生き生きと毎日を過ごしている多くの高齢者たちに著者は出会ったという。
老いを肯定的に捉えるフランス人の姿勢は、若い頃の生き方からも垣間見ることができる。
多くのフランス人は定年退職後の生活を非常に楽しみにしている。
そして、自由を満喫できる定年後のために、あらかじめ多様な人生設計を立てる。
早い段階(30代、40代)から周到な準備をはじめる。
人生の秋の実りと収穫は、定年後の高齢期に最終的に達成できる人間としての成熟度だ。
現役時代にはあったかもしれない権力欲、名誉欲、虚栄心などから自分を完全に解放する。
そして、『人を愛し、人に愛される』淡白で、謙虚で、善意に満ちた、心穏やかな人間になるようにつとめる。
職場での競争や上下関係から解放される定年後には、それができるようになる。
生の実りと収穫の秋を生き抜くには、日常生活のごくあたりまえのことに生きる喜びを感じるようにすること。
日常生活の「当たり前のことがら」「小さなこと」の中に生きる喜びを見いだせる感受性を養うこと。
例えば、周囲の小さな自然の中に美しさとさわやかさを感じる能力、
人間同士のちょっとしたふれ合いに喜びを感じる能力、
日常の仕事、家事、庭仕事、家庭菜園の維持管理、買い物、などに喜びを見いだす能力などがそれに当たる。
老いはそういう感受性を高めるもの。
フランスの高齢者たち、特に中産階層以上の人は、定年後も意欲的に何かを学びたいと考え、実際に新しいことに挑戦している人が多い。
高齢になっても、「人間は精神的に成長できるし、また成長しなければならない」と考えている。
国民の平等意識の強いフランスには「教育における年齢平等」という考え方があり、これが高齢者の学ぶ姿勢と意欲を支えている。
そして、感謝の気持ちと忍耐と威厳をもって、心穏やかに『最後の時』を迎える。
フランスの国民的文豪ビクトル・ユーゴは、こんな言葉を遺している。
「あなたの老いの日々に愛情を持ちなさい。そして、あなたの暗い冬のために早くから明かりを灯しましょう」
日本人も、老いることをもっと前向きにとらえてよいのではないだろうか。
一度しかない人生なのだから。
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