僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう/永田和宏、他
思いついたのが、目標、ビジョンを示すということでした。研究室のビジョンを示すことができたら、それに惹かれて学生さんがやってきてくれるかもしれない。そしてそのときに一生懸命考えたビジョンが、今もずっとやっているiPS細胞の研究につながっているのです。
本書に載っている山中氏のiPS細胞の研究のエピソードは興味深い。
どんな優れた人であっても研究は一人ではできない。
助け手が必要になる。
でも大学でそのような人を集めようとしても中々集まらない。
そこで思いついたのが、ビジョンと目標を示すことだという。
山中氏は、ES細胞の持っている課題を克服しようというビジョンを示した。
倫理的な問題のある受精卵を使わずに、ES細胞と同じような万能細胞を、患者さんご自身の皮膚の細胞や体の細胞からつくる。
こういう大胆な目標を示した。
これを達成するには、20年、30年、それ以上かかるかもしれない、いや、永遠にできないかもしれないということは当然よくわかっていた。
でも、そういうことは、学生さんには一切言わずに、これが実現したらどんなに素晴らしいかということだけを、30分間、とうとうと訴えた。
そうしたら、大学院生3名がやってきてくれた。
そして彼らのおかげで、20年、30年かかるだろうと思っていたことが、6年でやれた。
2006年にネズミのiPS細胞の樹立に成功した。
4つの遺伝子をネズミの皮膚の細胞に入れると万能細胞になることがわかり、これをiPS細胞と名付けた。
当時流行っていたiPodを真似て「i」を小文字にした。
これで、受精卵を使わなければいけないというES細胞の持っていた倫理的な問題をクリアすることができた。
そして、翌2007年には、人間のiPS細胞の樹立に成功した。
実際にiPS細胞をつくってくれたのは、こうした若い研究室のメンバーだった。
彼らがいなかったら、iPS細胞はできなかったと山中氏は言っている。
ビジョンを示すことがいかに重要であるかということであろう。
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