『ブランディング』/山口義宏
ブランド戦略の本質を一言で表現するならば、「ターゲット顧客にこう思われたら選ばれるであろうという価値を決めたら、そのような印象が残るようにすべての顧客体験や施策に一貫性を持たせるよう整える」ということ。
ブランドというと、ルイヴィトンやプラダといった高級ブランドを想起する人が多い。
しかし、ブランドはもっと身近なものだ。
例えば、ロゴが一切描かれていない、まったくデザインがされていない商品だけを置いているコンビニを想像してみるとどうだろう。
もしそんなコンビニがあれば、お茶1つ買うのも一苦労だ。
同じ色をした液体が並んでいるだけで、それぞれどんな味がするのか、ほかの商品とどんな違いがあるのかわからない。
そんな状態では、「これを飲もう」と決めるのはとても困難なはず。
「十六茶」とか「爽健美茶」といったロゴがあるので、安心して選ぶことができる。
ブランドは私たちの情報処理を簡略化する、という社会的な機能があるのだ。
たとえばスターバックスコーヒーは、マス広告を行っていない。
それでも強固なブランドを築き、世間に広く認知され、高い評価を得ている。
なぜそれが可能なのか。
その理由の1つは、ほかのチェーンが比較にならないほど「体験の一貫性」を追求しているからだ。
企業にとってブランドとは、その規模やポジションに応じて、競争を有利に進め、効率的に利益を生むための競争戦略ツールだ。
そして、マーケティングの4P施策(Product<製品・商品>、Price<価格>、Promotion<プロモーション>、Place<流通>)の判断の土台・軸としても、ブランド戦略は必要になる。
品質がよければ必ずしも消費者に選んでもらえるわけではない。
なぜ、品質で選んでもらえないのか。
それは消費者の多くが「客観的な比較・検証」をできるほど商材に関心が高い業種は少ないためだ。
また、商品・サービスの細かなスペック情報を知ったとしても、自分にとっての意味や価値として解釈するには相応の知識や経験が必要になるためでもある。
ブランドとは「識別記号と知覚価値が結びついたもの」。
たとえ圧倒的に優れた性能の商品をつくったとしても、消費者が存在を知らなかったり、「性能が優れている」と認識してもらえない限り選ばれない。
消費者の頭の中で、優れた価値が想起される「知覚価値」があって、はじめて購買検討の候補になる。
そして、消費者が「知覚価値」を頭の中に記憶し、記憶を仕分けして、思い出すためには「識別記号」も併せて記憶してもらうことが重要だ。
強いブランドは、識別記号が多くの人に知られ、豊かな知覚価値を想起させ、消費者の選択購買に大きな影響を与える。
「体験の一貫性」は、とても重要なのに企業が見落としやすい要素。
ブランドにおいては、ブランドターゲット、つまり象徴的顧客がブランドに心理的な共感があって、長期的な関係性のファンになってくれるかどうかがポイントとなってくる。
ブランドに思想・情緒レベルでの共感があれば、一度購入したあとも、そうそう浮気はしないもの。
関係の維持も難しくない。
モノが溢れている現代では、ブランド戦略は避けて通れない重要なものとなってくるのではないだろうか。
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