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2019年12月10日 (火)

おもてなし幻想/マシュー・ディクソン、他

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 データがもの語るのは、顧客の観点からすると、何か問題が起きたときに心を支配しているのは、解決に力を貸してほしいという感情だということ。感動させる必要などないから、とにかく問題を解決してそれまでやっていたことを再びできるようにしてほしい。

日本には「おもてなし」神話というものがある。

「おもてなし」こそが日本の誇る他国との差別化なのだと。

しかし、それは幻想なのではないかというのが本書の主張である。

例えば、カスタマーサポートと顧客とのやりとりが、ロイヤルティを高めるという常識について。

データによれば、カスタマーサポートと顧客とのやりとりが発生すれば、ロイヤルティを高めるどころか、4倍もの悪影響を及すという結果が出たという。

すばらしいカスタマーサポートが肯定的な口コミにつながるという考えはどうだろうか。

ひどいカスタマーサービス・エクスペリエンスが否定的な口コミを招く可能性はすこぶる高く、正確には65%だ。

これに対し、すばらしいカスタマーサービスについて顧客が肯定的な口コミをする可能性は25%しかない。

データがはっきり示すように、顧客はよいサービスエクスペリエンスについてはめったに語らない。

ことカスタマーサービスに関する限り、世間に広まる口コミの大部分は間違いなく否定的なものだ。

カスタマーサービスの役割は顧客を喜ばせてロイヤルティを向上させることではなく、顧客のディスロイヤルティを緩和することだ。

本書が言っていることは、顧客の期待を超える「おもてなし」は、業績にはほとんど関係がなかったということだ。

統計的分析によれば、顧客ロイヤルティを高めるのは、「顧客に手間をかけさせないこと」。

それだけが、有意な相関関係を示したという。

確かに普段自分が使っているパソコンがフリーズして使えなくなった時、やってほしいことは「早く元に戻してほしい」という、ただそれだけだ。

「おもてなし」など求めていない。

おもてなし精神は脈々と息づいてきた日本が誇るべき文化である。

「顧客志向」や「顧客第一主義」を理念に掲げている日本企業は枚挙に暇がなく、多くの企業において企業文化として根付いている。

それこそが日本の発展を支えてきたことに疑いの余地もない。

しかしサービスのデジタル化に伴い、あらためて立ち止まる必要があるのではないだろうか。

暗黙のうちにできあがった「おもてなし信奉」の空気感の前に、異を唱えることすら憚られるまま膨れあがった顧客対応は、レガシーになってしまっていないだろうか。

盲目的な「顧客第一主義」は社員努力をエスカレートさせて、「CS疲れ」を引き起こしていないだろうか。

「おもてなし」という言葉を隠れ蓑に、不必要な顧客訪問や電話対応を助長させていないだろうか。

そうして非合理に積み重ねていった顧客対応は逆に顧客努力を強いていないだろうか。

残念ながら「情報化社会において、おもてなしは幻想である」と言わざるを得ない。

業種によって緊急性は異なるものの、サービスのデジタル化にともない、遅かれ早かれ「顧客努力の軽減」の実現は避けられなくなるのではないだろうか。

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