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2020年1月18日 (土)

「期待」の科学/クリス・バーディック

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 人間には自己欺瞞の能力、つまり自分の心を欺く能力がある。しかし、私たちが心に抱える「期待」、「予測」の力はそれを上回る。私たちの見ている世界像は、多くの部分が実はこうした期待や予測から成っている。もちろん視覚や聴覚、味覚、触覚などの感覚情報を基に「ボトムアップ」で組み立てられる部分もあるが、頭の中にある期待や予測を基に「トップダウン」で作られる部分もある。

本書では人間の期待や予測が過去、どういうふうに扱われてきたか、その歴史や科学的な研究の成果を紹介している。

人間の脳には、常に未来を見る癖がある。

それは生来の癖で、どうすることもできない。

私たちは今、この時を生きているつもりだが、脳の関心はほとんど今には向けられていない。

いつでもどこでも脳は「この先はどうなるのか」という予測ばかりをする。

あまりに当たり前になっているので私たちは日頃それを意識しない。

特殊な状況に置かれない限り、自分が自分の脳の未来予測に支配されているなどとは思わないのである。

人間は常に心の中に自らの限界を設けようとする。

これ以上は無理と考え、自分の能力を抑制しようとする。

しかし、この「限界」は変化していく。

例えば、オリンピックの100メートル走。

東京オリンピックまでは10秒の壁があった。

ところが、それを一人の選手が破ると、今や9秒台は当たり前となった。

サッカーのPK戦の結果には一定のパターンがあるという。

まず総じて言えるのは、大事な試合であればあるほどシュートの成功率が下がるということである。

また、最初のシュートと二本目のシュートは、その後のものより成功率が高い。

フォワードの選手はミッドフィルダーよりも、またミッドフィルダーはディフェンダーよりも成功しやすい。

だが、もっと結果に大きく影響する要素がある。

それは選手の抱える不安の大きさだ。

シュートに失敗する選手は多くの場合、不安に覆われた表情をしている。

「認知の具現化」という考え方がある。

この理論は、「感情は脳が身体の自動的な反応の意味を解釈することによって生じる」というものである。

つまり、何か不安があるから心臓の鼓動が早まり、掌に汗をかくのではない、ということだ。

「不安」という感情は心臓の鼓動が早くなったり、掌に汗をかいたりといった身体の反応を脳が解釈した結果として生まれる、という。

この理論が正しければ、様々な推測が成り立つ。

そして実験によってその多くが正しいことも確かめられている。

人は楽しいから笑うというよりも笑うから楽しい。

自信があるから顔を上げるのではなく、顔を上げるから自信が湧いてくる。

憂鬱だからうつむくのではなく、うつむくから憂鬱になる。

だとすれば、未来を変えようと思うならば、まず姿勢や表情や言葉を変えることが大事だといえるのかもしれない。

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