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2020年1月 4日 (土)

世界史をつくった海賊/竹田いさみ

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 海賊たちはエリザベス女王時代の経済的基盤を支えただけでなく、いざ戦争になると特殊部隊として参加し、イギリスを戦争の勝利者へと導いた。このように、海賊が国家権力と一体化した16世紀を基点に、イギリスは歴史上希に見る大英帝国を築き上げ、18世紀から19世紀の間、世界の海を支配するようになった。海賊の存在なくして、イギリスがこの世界史に残る偉業を成し得ることはなかったといっても過言ではない。

イギリスは、海賊行為という手法で豊かさを追求し、200年以上にわたる歳月をかけて大英帝国を築いた。

たしかに産業革命によって大英帝国は確立されたが、その元手になる資金の一部は紛れもなく海賊がもたらした略奪品、つまり〝海賊マネー〟であった。

「海賊(Pirates=パイレーツ)」は、「海」を舞台に強盗を行なう犯罪者だが、イギリス人の間では広く「海の犬(Sea Dogs)」と呼ばれていた。

しかし、イギリスは「海賊」を犯罪者としてではなく、近代国家の礎を築いた「英雄」として再定義することで、海賊行為を見事に合法化、正当化してきたのである。

本書では、海賊を犯罪者としてではなく、イギリスにおける国家権力のマシーンとして捉え、「海賊国家」イギリスの神髄を炙り出そうとしている。

イギリスが貿易立国として世界経済に君臨するのは18~19世紀であり、そこに至る200年間は、〝海賊マネー〟に依存せざるをえなかった。

女王の集金マシーンとして、エリザベス一世がもっとも頼りにしていた海賊のひとりが、イギリス人として初めて世界一周の航海「世界周航」(1577~80年)を成し遂げたフランシス・ドレークである。

後世イギリスが貿易立国になる経済的基盤は、ドレークに代表される海賊によって形成された。

海賊たちの暗躍がなければ、イギリスの王室財政、ひいては国家財政さえ破綻していたことであろう。

ドレークは世界各地で略奪の限りを尽くしたが、その中身を覗いてみると〝金と銀〟のコインや延べ棒が中心で、これらに加えて大量の砂糖やワインなどが含まれていた。

略奪品の大半はスペイン船から略奪したものだが、ポルトガル船からの略奪品も一部含まれる。

〝女王陛下の海賊〟は女王の集金マシーンとして大きな役割を演じてきたが、1585年あたりからスペインとの戦争を控えて、戦争マシーンとしての新たな役割が付与されるようになる。

海賊の役割が変化しはじめる。

エリザベス女王の時代を代表する戦争として必ず想起されるのが、スペイン「無敵艦隊」との海戦である。

無敵艦隊との戦闘があった1588年7月28~29日を、イギリスは大国スペインに勝利を収めた記念日として、歴史に深く刻んでいる。

この戦争の歴史的意義は、スペインが没落していく転換期となり、一方のイギリスが18~19世紀に向けて大英帝国を建設し、パクス・ブリタニカ(Pax Britannica=イギリス繁栄の時代)を築く出発点となったことである。

歴史を振り返ると、大英帝国の建設に集金マシーン、戦争マシーンとしての海賊がいかに大きかったかがわかる。

現代の尺度、価値観、善悪観で見ると「悪」であることが、あの時代は「善」であったという点は非常に興味深い。

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