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2020年2月 4日 (火)

羊と鋼の森/宮下奈都

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「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ」 

この小説の主人公、外村は、高校卒業後、専門学校で学び、地元北海道の楽器店に就職した駆け出しのピアノ調律師だ。

ピアノを主に扱っている小さな楽器店には、4人の調律師がいる。

初心者マークの外村、彼を一番よく面倒見てくれる7年先輩の柳、40代の舌鋒鋭い秋野、高校生の外村を魅了して調律師の道に引き込んだ天才板鳥。

この3人の先輩たちの仕事の信条、こだわり、夢は、それぞれ大きく異なっていて、その違いが各自の人生としても描かれている。

柳は、人当たりがよく、趣味でバンドのドラマーをし、婚約中とリア充そのものだが、公衆電話の派手な黄緑の色の主張が我慢できないような神経過敏な思春期を過ごし、メトロノームの音と幼馴染の存在に救われた。

秋野は、ピアニストとしての自分の才能の限界におびえるうちに、落下する悪夢を見るようになり、4年間煩悶したのちに調律師に転身する。

天才板鳥は、巨匠のヨーロッパツアーに帯同を求められるほどの存在なのに、飛行機を嫌がって乗りたがらず、小さな町の小さな会社で働いている。

3人とも、おそろしく繊細で神経質で聡明だ。

その鋭すぎる感覚を、音を整えるという仕事に注いで、人生のバランスをとっているように思える。 

調律師をモチーフにした優れた仕事小説であると同時に、本作は、青年の成長物語である。

また、外村の自分探しの物語でもある。

仕事とは?人生とは?いろいろ考えさせられる小説だ。

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