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2020年2月 5日 (水)

交渉術/佐藤優

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 人間は欲望をもつ存在だ。その欲望にどのように付け込んでいくかが交渉術の要諦なのである。人間には、さまざまな欲望がある。性欲、金銭欲、出世欲、名誉欲などさまざまな欲望がある。交渉術の研究を裏側から見るならば、欲望の研究でもある。相手の欲望にどのように付け込んで、こちら側に有利な状況をつくるかということだ。

交渉術は、善でも悪でもない、価値中立的な技法なのである。

ナイフが、リンゴの皮をむくことにも使えるし、人を刺す凶器にもなるのと同様に、交渉術を善、悪、双方の目的のために活用することができる。

従って、交渉術においては、物事の本質を見極める洞察力よりも、道具的知性の方が必要とされる。

中でもインテリジェンスと交渉術は、不即不離の関係にあると著者はいう。

インテリジェンスとは、通常、入ってくる情報(インフォメーション)の信憑性を評価し、政策決定に役に立つ形で加工を加えた特殊情報である。

インテリジェンス機関は、欲望研究の専門家集団でもある。

従って、人間のどの欲望を、どういう形で満たすと、相手を協力者に取り込むことができるか、いつもそのことばかり考えている。

ホテルの部屋に入るとベッドに全裸の金髪娘が寝ていて、その姿を写真に撮られて脅されるなどというハニートラップは、三流スパイ小説の中だけの話だ。

人間は脅して来る者に対して、心の底から協力することはない。

従って、標的とする対象が窮地に陥るのを待って、「助けてあげる」というのが、プロの工作員のやり方なのだ。

また、カネで情報を買うことができるというのも、インテリジェンス業界の実態と異なる。

カネはいくらもらってももっと欲しくなるという特殊な性質をもった商品だから、カネが好きな者を相手にインテリジェンス活動をしてはならないのだという。

インテリジェンスの専門家は、対象国や民族の神話、宗教経典、義務教育で使用される歴史、国語の教科書には必ず目を通す。

交渉術においても、相手の内在的論理を捉える研究は不可欠である。

交渉は人間が行うものである。

従って、交渉当事者の力量によって成果が大きく変わってくる。

相手側の交渉担当者を罠に陥れ、堕落させ、こちら側に有利な状況を作り出すことも、交渉術では当然使われる。

実際の工作においては、人間は保守的に行動することを前提にする。

つまり、動物でありながら、愛や名誉を重んじ、体面を気にかけ、社会的慣習に縛られるという人間の矛盾が、付け込む隙となる。

そこから工作を仕掛け、交渉を自分たちに有利に展開する。

と、実際にロシアとの交渉の現場に立ち会った著者ならではのエピソードで本書は綴られている。

実際の交渉はきれいごとでは済まされないものだということではないだろうか。

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