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2020年3月16日 (月)

「育休世代」のジレンマ/中野円佳

Photo_20200311080601  彼女たちは、異なる社会条件や選択肢があっても、その道を選ぶだろうか。たとえば「男性も女性も同じように仕事をしながら、十分に育児の時間も取れる」といった選択肢があっても、専業主婦や一般職になりたがるのだろうか。「自分で選んでいる」の内実は、既存社会の構造や本人が置かれている状況を所与のものとして、選ばざるを得なかったり、選ばされているものであったりする可能性がある。

有名大学を出て就職活動も勝ち抜き、仕事をする気満々に見えた「バリキャリ」女性たちが、制度が整ってきたにもかかわらず、出産後に辞めてしまったり、育児重視にシフトし、仕事への熱意を失うように見えたりするのはなぜなのか。

1999年の改正均等法の施行、2001年の育児・介護休業法の改正などを経て、制度的にも人数的にも女性の就労継続可能性が拡大してから入社した世代を、本書では「育休世代」と呼んでいる。

大学卒業と就職を2001年以降とすれば、現役で大学に入ってすぐに就職したことを想定して、1978年生まれ以降の世代が該当する。

「育休世代」が育ったのは、女性に対して、ただ単に仕事と育児の両方をこなすだけではなく、2つのより高いプレッシャーがかかっていった時代に重なる。

1つ目は、「男なみ」に仕事で自己実現をすることをたきつけられる「自己実現プレッシャー」

2つ目は、できれば早めに母になり、母として役割を果たすことを求められる「産め働け育てろプレッシャー」である。

更に、復帰後の女性の処遇については、いわゆる「マミートラック」に追いやられる問題が本書で指摘されている。

マミートラックとは、出産後の女性社員の配属される職域が限定されたり、昇進・昇格にはあまり縁のないキャリアコースに固定されたりすることである。

マミートラック問題の難しさは、「ワーキングマザー自身がマミートラックを望んでいる」と見えることである。

子どもとの時間の確保のために本人が「第一線」に戻るのをためらう。 

マミートラックにはまると、長期的に昇進・昇給に大きく差が付いていくことが予想される。

しかしそれだけではない。

より重要なのは「やりがい」の問題だろう。

心理学では、賃金などの「外発的動機づけ」よりも、仕事そのものに対する意欲である「内発的動機づけ」の方が就労意欲を高めるとされる。

しかも、育休世代は、仕事による自己実現プレッシャーを受けてきた世代である。

「やりがい」を奪われることは、就労意欲そのものを引き下げる可能性が高い。

特に日本の企業ではいまだに「評価」されるのは、客観的に計れる成果や生産性というより、長時間労働に象徴される「企業へのコミットメント」であることが多い。

となると、時間制約がある社員が評価されないことによって失うものは、昇進や昇給だけはなく、仕事内容そのもののやりがいとなる可能性が大きい。

政府は「女性が輝く社会」を掲げるか、まだまだ課題は山ほどあるというのが現実のようだ。

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