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2020年7月14日 (火)

韓国内なる分断/池畑修平

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 文在寅、そして彼が体現している進歩派が清算したがっているのは、現在の日本という国や日本人ではなく、同じ韓国人のうちの保守派なのだ。

朝鮮半島が北と南に分断されていることは誰もが知るところだ。

しかし、著者は同じ国内において韓国は保守派と進歩派に分断されているという。

保守派か、進歩派か。

大きく括ると、企業経営陣、高齢者層、「嶺南」と呼ばれる南東部の慶尚道地方は、保守。

これに対し、労組、若者層、「湖南」と呼ばれる南西部の全羅道地方は、進歩。

韓国の場合、安保でこそ、保守派と進歩派は決定的にスタンスが異なる。

北朝鮮に関して、保守派が「敵対する事実上の国家」という視座で捉えるのに対し、進歩派は「同じ民族であり、統一を果たすべき同胞たち」という、民族主義を優先させる。

韓国の進歩派の人たちは、金大中、盧武鉉と10年間続いた融和的な対北朝鮮アプローチが、緊張を和らげ、統一に向けた足掛かりを築いたと胸を張る。

一方、保守派の人にその10年間について話を振れば、たいてい、「北韓に核やミサイルを開発する資金を垂れ流しただけだ」と手厳しい答えが返ってくる。

そして、新しい大統領が誕生すると、とりわけ保守派と進歩派の間で政権交代が起きると、韓国社会全体において、人事の一大シャッフルが繰り広げられる。

韓国の大統領は、行政府を構成し、事業への予算配分や人事で強大な権限を持ち、法案に対する拒否権を持つ。

そうした権限は、一般的に、議院内閣制の日本の総理大臣よりはもちろん、米国の大統領と比べても強いとされる。

いつしか定着した別称は、「帝王的大統領」。

大統領のさじ加減で決まる人事は、公職者たちにとどまらない。

官僚の天下り先ともなる公企業や公団・公社などの準政府機関のトップも、大統領次第だ。

さらに、そうした準政府機関のトップに就く人物は、自分に近い人物を補佐的なポストに据えるので、そうした補佐たちも、大統領が間接的に決める結果となる。

直接・間接を含めて、韓国全体で、いったいどれだけのポストが大統領によって決まるのか。

青瓦台の元高官は、著者に、「ざっと9900」と断言したという。

新大統領誕生で交代するポストは、9900人にとどまらない。

大統領が人事権を持たない民間企業においても、新大統領に対する忖度、より露骨に表現すれば忠誠心を示すべく、率先してトップや幹部を入れ替える事例が珍しくない。

このように、直接、間接、そして企業側の忖度を含めて、韓国大統領は強大な人事権限を有する。

結果、政治家たちはもちろん、官僚も、企業人も、記者も、新たな「帝王」に取り立てられた人たちは絶対的な忠誠心を示す。

逆に、新大統領によってポストを奪われた人たちは、怨嗟を募らせる。

「大統領選挙の翌日から次の選挙を睨んだ権力闘争が始まる」最大の原因は、大統領によって激変する人事にある。

どの大統領も、当初は絶大な権勢を誇るが、五年間の任期の折り返し点を過ぎ、三年目の後半あたりから、みるみる求心力が落ちていく。

そして、最後の一年目ともなると、政治的な指導力をまるで発揮できなくなり、国政は停滞してしまう。

「帝王」の絶大な権限は、案外と儚い。

任期は五年間ではあるが、実質的には四年弱といったところだ。

そして、大統領選挙の結果、勝者と敗者が入れ替わるたびに、社会全般で怨嗟が拡大再生産される。

韓国はこれを繰り返してきたというのである。

韓国をこのような目で見ると、韓国で起こっていることの本質が見えてくるのではないだろうか。

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